本研究の主目的は,「幼少年期の実行機能発達を支える『こころ』と体の調整力」を実証的に解明することであった。本研究で明らかにされた研究結果を踏まえ,次に結論を述べる:(1)関連分野の先行研究を概観したところ,幼少年期における基本的な運動能力の獲得はその後の発達期における身体活動量に寄与すること,就学前後の発達期における人的・物的・質的な環境整備の役割は大きいこと,また運動による心理社会的な恩恵については,負の気分・感情の低減,自己概念の充実,基本的運動技能の獲得,認知的機能の向上,さらに学業成績や学校適応の改善に関して検討されてきたこと,が明らかとなった.しかし,その恩恵に及ぼす効果については研究間で一致せず,定義や測定方法における共通認識が必要であることが課題だと指摘される;(2)身体活動と基本的運動技能の関連性については,ボール技能などの対象操作と歩行などの移動能力に一貫した貢献が認められ,神経系と一般型に固有の特徴を現す発達期での調整力への影響も示唆されたこと,また身体活動の認知機能への貢献については,体力,体育授業,課外活動等は認知機能に正の恩恵を及ぼす,または低下させてはいなかったこと,が明らかとなった;さらに(3)幼児期の心と身体の一体的な発達は遊びを中心とした多様な体験から培われるが,運動の調整を通じた体験の役割と意義の大きさが推察される.すなわち,内外の環境である,身体と動き,そして他者との直接的な相互作用の体験の積み重ねには,高次の認知機能(EF)が中核的な役割を及ぼし,運動と認知の両技能を連関づける,と示唆された.今後,幼少年期の調整力と心理社会的発達を関連づける実行機能の役割を解明すべく,いかなる発達期において,どのような基本的運動技能の習得が,心理社会的発達を促し,さらに両要因の連関に実行機能がいかなる役割を果たしているか,検討することが求められる.
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