本研究は,専門領域の異なる研究者によるトライアンギュレーションを用いて,投動作学習過程における心理的循環モデルの作成を試みた。その結果,「中学生の投動作学習では,投動作の理解をもとに身体運動の融合を図り,それに対する正確な動作の追求による自己有能感をもつことは他の運動に汎化するという心理的循環を経ていた」と結論づけられた。さらに,中学生の循環モデルとして,「投距離が向上するだけでなく,学習内容の理解とともに実際の動きの習得が自己有能感の向上に結びつく」といった特徴もみられた。これらの概念形成は,種々の課題があるものの統計的な量的分析では表れにくい語りのデータ分析を試みたことにより,新たな知見を得ることができたといえよう。本研究において,ヴァリエーションから多くの概念が導き出されたことは,今後の中学生の投動作学習における重要な手がかりになると考えられる。 最後に研究の課題と今後の展望について述べておきたい。 本研究では,投動作学習を実施した中学校第1学年8名の語りによるデータの範囲で検討した。インタビュー・データから概念を生成し,次に生成した概念と概念との関係を関係図に示し,複数の概念からなるカテゴリーあるいはサブカテゴリーを生成した。モデル図に示されたカテゴリー,サブカテゴリー,概念の動きはトライアンギュレーションにより,生徒の心理的変容を示したものである。各カテゴリーは,類似のヴァリエーションから生成されたものであり,個人を特定したものではない。今後,個人的背景の詳細な分析を加えることで,新たな知見が得られるものと考えられる。なお,今回の対象者は,すべて運動部に所属しており,日頃から運動に関わっている生徒達であった。クラスには運動に対して積極的になれず不得意な生徒も存在する。今後は,運動の得意群・不得意群の特徴の分析を加えてしていくことが必要であろう。
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