これまで腰部に装着したモーションセンサー(以下IMU)を用いた走動作の評価の妥当性を評価パラメータの妥当性とその精度の信頼性から検討してきた。最終年度では、腰部にIMUを装着させて実際のレースにおけるランニング動作の評価をおこなった。マラソンにおいて腰部のIMUからレース中のストライドとピッチ、上下動、接地時間、スティフネスを算出した。その結果、マラソンにおいてペースを維持できたものは、ストライドを維持していたこと、ピッチはペースの低下と関係がないが接地時間は長くなることが明らかになった。そして、上下動と接地時間から鉛直運動のばね定数(スティフネス)を算出すると、ペースが変化する前から変化がみられ、スティフネスの調節によってペースの維持が関係している可能性が示唆された。一方で、マラソンにおいて終盤までペースを維持したランナーはレース序盤から多くのパラメータは変化しなかった。優れたランナーは終盤までランニング動作が変化しない動作を身につけている可能性が考えられた。 実験室ではなく、マラソンなど道路における走行中にランニング動作のバイオメカニクス的分析がおこなえたことは非常に価値が高い。一方で、データの精度についてはさらなる検証と精度向上の工夫が必要である。またデータの精度の問題があるとしても、1歩ごと、あるいはある距離ごとにランニング動作のばらつきが大きいこともわかった。スピード、そしてストライドとピッチのようにパフォーマンスパラメータは大きく変動しないものの、腰部の動きなど動作パラメータは大きく変動していた。このことは国際誌においても着目されており、ランニング障害との関係も示唆されている。今後の大きな研究テーマになり得ると考えられる。本研究の成果は国際学会において発表し、論文にもまとめられた。さらにこの成果によって新たな産学共同研究の可能性へと発展している。
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