研究課題/領域番号 |
15K01557
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
星野 聡子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (80314524)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 競技ストレス / 「挑戦・脅威」 / 精神生理学 / 心臓血管系 / 認知・情動・生理 / 動機づけ / 剣道対峙場面 |
研究実績の概要 |
本課題研究の目的は,スポーツ競技のストレス場面において,目前の困難に対して,自身の成功確率の高い動機づけをもって挑戦的に立ち向かえる状態にあるのか否かを精神生理学的に評価することにある. 挑戦的に困難課題に立ち向かえるか否かを評価するためには,心臓血管系の応答パタンを精査する.このパタンの存在は,挑戦状態では興奮が高まり,心臓血管系応答は交感神経亢進型の心拍数の増加と収縮期血圧の上昇が示され,精神生理学的に有利な身体応答が準備されると,考えられる.一方,脅威状態では不安が高まり,心拍数の増加および末梢血管抵抗を反映する拡張期血圧の上昇がみられ,競技に不利に働くという仮説を提唱することができる. 昨年度の実験結果では,ストレス覚醒反応の認知・情動・生理の3過程について検討したところ,快―不快情動を惹起に由来するストレス反応は見いだせたものの,挑戦―脅威の説明に適う心臓血管系応答パタンは見いだせなかった.これを受け,今年度はさらに実験設定および実験条件を精査して基礎的研究を実施した. 技能レベルに応じた対戦者の難易度を変え,大スクリーンと等身大映像を用いたスポーツ実践に非常に近い状況を実験的に設け,対戦相手に対する認知的評価を質問紙によって明確に評価させ,「挑戦」あるいは「脅威」の認知的評価と生理の変化を詳細に検討した.その結果,認知的評価の違いによって,「挑戦」では心臓型の,また「脅威」では血管型の心臓血管系の振る舞いをパタン分けできることが証明された. 今年度の基礎的実験研究をまとめ,次年度に学会発表を3件(国内2件,国際1件)を行うことが決定しており,順次,研究成果を公表していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度計画では,基礎実験のほかにもフィールドに近い競技場面でのデータ収集から,選手の技能に見合った難易度か否かについて,ストレス覚醒反応の認知・情動・生理の3過程に及ぼす影響を検討することを当初の目標としていた.しかしながら実験室内の基礎実験システム構築の準備には,想定以上に時間と人手(実験モデルとなる競技経験のある協力者や実験補助者)が必要であったため,競技場面に近いフィールド研究については,試行的段階での検討にとどまっている. また,「挑戦・脅威」の心臓血管系の振る舞いを検証するべく備えてきた現在研究室で保有する連続血圧計では,その測定指標が十分でなく,見合わないことが判明した.このため,より目的に適った高額の機器をレンタルし,予定していた心拍変動を用いたリアルタイムによる自律神経系周波数解析の測定が不可能となった.今後は,心臓血管系応答と心拍変動による周波数解析の指標の,研究における優先順位を検討し,より適した指標によって説明変数を決定することとする.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,競技実践の場に近い実験状況を設定した応用研究も手掛けることとする. 「挑戦・脅威」という競技者の技能に見合った難易度か否か野認知的評価の変化,あるいは困難な課題に対する動機づけの変化が認知・情動・生理の3過程に及ぼす影響について検討することとし,実際のパフォーマンスへ及ぼす影響を検討する. 具体的には,パフォーマンスの習熟の違いによって,認知・情動過程が変容し,それに伴う生理反応パタンが変化する.また,競技中に認知する「挑戦ー脅威」による情動が,次に実行される運動パフォーマンスに対していかなる影響を及ぼすのか,その功罪について,実際のパフォーマンスと合わせて,綿密に分析することとする. 心理的要因が原因となり,運動要求に沿った生理応答が促進または阻害され,その結果,行動が受ける正負の影響を検討することは,これまで「緊張」や「あがり」といった単純な言葉で包括されていた身体の変化について,より深化した解釈が可能となるであろう. 最後に,今年度までに行った基礎実験について,随時学会発表を行い,学術雑誌へ投稿する.この成果を根気強く広く社会へ発信することに努力傾注し,スポーツ競技場面でのこの画期的なストレス反応の現象を継続して証明していく計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年,長年使用していたアナログ出力可能な心電図計が故障した.実験システムには必要不可欠であったため,この機器の修理費または買い替え費用に充てるよう再計画した.しかしながら,現在,生体情報測定機器はデジタル化の進歩を競い,アナログ出力できる機器は極めて希少であり,汎用型の廉価なものは存在しなかった.そこで,高額なアナログ機器を購入するよりも,電気的生理学を熟知した工学系知識のある専門家に知識提供を依頼し,その丁寧な指導を受けながら廉価で目的に適った機器を試行錯誤して自作した.このような経緯によって,予算を無駄遣いすることなく,次年度へ使用を回すことが可能となった.また,不確定であった参加予定の学会が,近畿日帰りが可能な場所での開催であったため,旅費の使用が抑えられた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,国際学会1件,国内学会2件での発表を計画しているため,その旅費および参加費として使用する. また,実験被験者,実験補助者,解析協力者等の人件費を増やし,最終年度の実験を進めるとともに,研究公開のための論文投稿費として使用し,研究を促進していくこととする.
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