本研究の目的は,スポーツ競技ストレス状況で困難課題に対して挑戦的に立ち向かえるか否かを精神生理学的に評価することである.今年度は精神生理学的指標として心拍変動と瞬目を中心に分析・検討を行った. 瞬目は心的要因に影響を受け,緊張の持続を表すtonic瞬目とphasic瞬目に分類できる.tonic瞬目は集中を要する状況や課題要求によって抑制され,phasic瞬目は情報の取り入れによって抑制される.心拍変動CVRRの減少は集中や緊張の高まりを示す.同じく心拍変動の周波数帯域は自律神経活動を反映する. 剣道対峙場面で対戦相手の技能レベルの違いを課題とした認知的評価と自律神経系活動との関係を検討したところ,心理指標での課題難易度・勝敗・自信・挑戦が高い時に低い時に比べ,有意にCVRR減少と瞬目抑制時間延長および瞬目率低下がみられ緊張と集中の高まりが示された.心拍変動においては,大学生では課題難易度の認知的評価の違いによって自律神経系活動の振る舞いが異なり,難易度が五分五分で挑戦評価が高い時に交感神経活動の高まりが抑制され,副交感神経活動が亢進するパタンを示した.また対象を社会人の中年期競技者に着目し,大学生青年期競技者と互角に生涯スポーツをする背景を精神生理学的指標に求めた.課題の難易度評価に対する「挑戦・脅威」の認知的評価は大学生では難易度に依存したが,社会人は常に挑戦的に行うことが可能であった.血行力学的裏づけとしても,社会人は心収縮力が高まり,大学生群より代謝要求に適った血液循環であった.社会人は難易度を高く評価することはなく常に挑戦状態にあり,心拍変動は常に交感神経が亢進した. 以上から,困難課題に対する「挑戦・脅威」の評価は,単なる「挑戦・脅威」評価ではなく,経験や技能などの個人の資質に左右される動機づけや努力量等に依拠する新たな方策を模索することが今後の課題である.
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