ヒトの身体は,それぞれ2本の腕と脚で構成され,2本の下肢は主に身体の移動を担い,2本の上肢は生活を営むような巧みな作業を担っている.上肢について,ほとんどの人が利き手と非利き手の動作習慣があり,両手の使い分けや使い勝手さも個々の人がよく経験している.サッカーのような片側脚使用の経験者には,下肢における左右差の存在はみられるが,人間の基本動作となる歩行や走行動作における左右差の存在はまだ明確ではない.今まで歩行や走行動作について,動作の変位や時間における左右差の計測,速度の変化による左右差の変動,左右差の性差および下肢筋力の左右差についての報告はまだ少ない.また歩行や走行に関する研究は,標本数の少ない1サイクルだけのデータから得られた結果が多く,規模の多いデータ解析による研究が少なかった. 本研究は,下肢動作の左右差を明らかにするために,12秒間におけるトレードミール上での歩行と走行動作における膝の垂直変位を計測,また座位姿勢での下肢筋力の計測も行った.男子23名と女子19名の被験者における計4段階の計測から,移動速度の変化による下肢動作の左右差の変動,左右差の性差を算出した.また垂直変位と筋力の値から,片側優勢人数の割合を算出した.以上の結果から,自由歩行では右脚が左脚より高く上がり,男子が女子より左右差が大きいことがわかった.また垂直変位と筋力における右優勢人数の割合は約60%で,男女とも右優勢の人数が多く,その中でも男子が女子より右優勢の人数が多い傾向が見られた.その歩行動作にある左右差は歩行動作自体の発生期から存在し,成人まで存続している可能性が考えられる。右優勢の傾向については,ヒトの生まれつきの特徴であるか,あるいは上肢の右利きに影響されたなどの可能性があると推定される.
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