研究実績の概要 |
本研究では、社会認知理論の認知・態度・行動といった人々の心理的要因に対するアプローチとして、地域とのつながり、環境保全、医療費削減などの社会的恩恵認知に着目し、社会的恩恵認知による高齢者の身体活動促進に貢献することを目的としている。 平成27年度に構築したモニタ装置を活用して、平成28年度には情報介入刺激への応答行動分析に加えて、最終年度に実施予定であった実践モデル検証も完了した。しかしながら、ウォーキング行動に影響を与えたのは、通信メディアよりも知人からの口コミの影響が大きく、また、Webサイトやブログ・ネット配信によるウォーキングイベント告知による恩恵因子の効果については顕著には認められないという、当初の仮説とは異なる結果が得られた。それゆえ、最終年度である平成29年度には、それまでに構築されたモニタ装置を継続して活用し、“人々の興味・関心に配慮し、健康以外の目的を活用するような非直接的なゲートウェイからの戦略”という、先行研究(原田他,2009)で提示された戦略の有効性を検証しようと試みた。具体的には、月例セミナーや各種イベントを開催して、ウォーキングを媒介としたさらなる健康意識の高まりと健康増進技法の獲得への効果を検証した。 結果として、ウォーキングイベントへの参加を通じて健康づくりモニタへ参画した高齢者は、知識・技能の向上を目的としたセミナー等のイベントに参加するものは僅少であり、“ウォーク”という身体活動機会が当該高齢者の健康増進を通じた生活の質向上に及ぼす効果が限定的なのではないかとの可能性が示唆された。 しかしながら、これまで当然のこととして信じられていた高齢者への身体活動促進効果への懐疑は、常識への挑戦という観点から極めて慎重に検証する必要がある問題であり、本研究の成果だけから安易に結論付けるべきではないことが自制された。
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