本研究課題のこれまでの研究において、発育期にある脳性麻痺の子どもたちの特徴として、関節可動域は身長や体重などの身体的発育とは関係しておらず、また運動能力は発育レベルとは相関がなくGMFCSレベルと有意な関係にあることが明らかとなった。関節可動域は、運動能力と明確な関係がないことも示された。そこで、本研究の目的は、発育期の子どもだけでなく成人を含めた脳性麻痺者を対象として、年齢、関節可動域、及び運動能力の三つの要因の関係を明らかにすることであった。 被験者は9歳から55歳までの脳性麻痺者男女120名であった。被験者全員がGMFCSレベルは1から3であり、単独であるいは補助器具を使用して歩行可能であった。関節可動域は、全身7部位(手、肘、肩、頸、股、膝、及び足)の25項目であった。運動能力は、文部科学省の新体力テストを基に、握力、50m走、10m往復走、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、閉眼片足立ち、シットアップ、反復横跳び、柔軟性、及びシャトルランの10項目を測定した。 年齢と相関が認められたのは握力のみで、すべての関節可動域と年齢間には有意な相関関係は認められなかった。関節可動域と運動能力では、たとえば握力と股関節外旋と有意な相関が認められたが、この場合関節可動域と運動特性の関連性は乏しく、関節可動域から運動特性を説明することはできなかった。一方、各運動能力と最も強い相関が認められたのは、GMFCSレベルだった。脳性麻痺者の関節可動域は、運動を制限する要因の一つであることに違いはないが、関節可動域の値そのものが運動能力を評価できるものではなかった。脳性麻痺者の運動能力は、個々の関節可動域ではなく、全身性の身体活動能力が重要であることが示された。
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