研究課題/領域番号 |
15K01607
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
大沼 義彦 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (70213808)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オリンピック / レガシー / 開発 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、①2018年平昌冬季オリンピックに関する現地調査、及び②2026年北京冬季オリンピック競技会場に関する予備調査を行った。 1、平昌オリンピック:同大会については、まず、現地において先駆的に調査を実施している松井理恵氏(北星学園大学非常勤講師)から基本情報の提供を受け、同氏の協力のもとに現地調査を実施した。明らかになったのは次の3点である。(1)スキー競技会場となる平昌クラスターの中心は、ホテルやコンドミニアムを抱える既存スキー・リゾート施設である。しかし、誘致過程での度重なる会場変更により、各競技場が分散した結果、新規に交通アクセスの整備等の課題を負うことになった。なお、大会の物理的レガシーは新規施設のボブスレー・リュージュ競技場のみとなる。(2)対照的にスケート競技会場となる江陵クラスターでは新規に4つのスケートリンクが建造される。江陵市では、本大会を契機に開発も進むと考えられたが、当初の予定よりその規模が縮小された(高速鉄道の断念等)。ただ、オリンピック競技施設の利用計画だけでなく、宿泊施設、新駅建設による再開発など、大会はその後のまちづくりに多大なインパクトを与えるものとしてある。(3)こうした中で江陵では市民団体、特にまちづくりセンターを中心とするNPOが市民200人フォーラムを開催するなど、オリンピックを包摂したまちづくりのあり方が模索されている。 2、2026年北京冬季オリンピック:同大会は、氷上競技は2008年北京大会のレガシー施設を用いるものの、雪上競技は新規会場を整備することになる。スキー会場の中心は河北省崇礼に隣接する云頂スキー場である。同地は1995年以来大規模スキー・リゾート地として開発されてきたが、北京からの大量輸送に課題を抱えている。今後、選手村や高速鉄道の新駅建設等の開発が予定されており、それによる農民の移住も計画されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の当初の研究課題は、①英国におけるスポーティング・レガシーに関する理論的研究、及びロンドンオリンピック後の市民スポーツに関する資料収集、現地調査、②2022年平昌大会に向けた市民レベルの活動に関する資料調査、現地調査であった。しかし、英国での共同研究者との日程調整がつかなかったことに加え、2026年北京冬季オリンピック大会が決定するなど、予期していなかった自体が生じた。したがって、平成27年度は英国における研究を次年度以降に順延し、平成28年度に予定していた中国北京調査を1年早め北京冬季オリンピックに関する予備的調査として実施することにした。 1、平昌・江陵調査:2022年平昌冬季オリンピック大会については、スキー会場の整備状況を実際に確認できたこと、また課題についても現地調査から把握することができた。特にスケート会場となる江陵においては、NPOによるオリンピック関連活動が確認され、江陵市のオリンピック対応だけでなく市民レベルの実践を把握することができた点は大きい。 2、中国・崇礼調査:2026年北京冬季オリンピックについては、まだ開催が決定して間もないこともあり大会に向けた準備がこれから進む段階にあった。それだけに、中心となる崇礼の基本的な地域産業構造(農業、鉱業、スキー観光)を把握することができた。また、高速鉄道駅や選手村建設地にある集落(太子城)の実態も確認することができた。 調査対象地の変更があったものの、当初予定していた基礎的資料の収集とオリンピックによる開発の課題を実際に把握することができた。特に、松井氏の協力も得られた韓国調査では市民レベルの活動に接近でき、研究遂行の上で意義が大きかった。中国調査についてはまだ予備的段階にあること、また文書資料の少なさもあり、今後とも継続的な資料や情報収集が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度実施予定であった英国におけるスポーティング・レガシーに関する理論的研究、及びロンドンオリンピック後の市民スポーツに関する資料収集、現地調査を行う。また、平昌オリンピック、北京オリンピックに関する調査も継続的に実施する。 1、英国におけるオリンピック研究:英国ラフバラ大学のアラン・ベアナー教授に助言を受けながら、欧米におけるオリンピック研究、都市開発研究のレビューを行い、理論的枠組みの確認と研究遂行上の課題について整理する。 2、平昌オリンピック研究:平昌大会は、スキーの平昌とスケートの江陵の分散開催となる。そのため既存施設のあり方によりレガシーや地域開発にも差異が生じてきている。ここには会場の分散化が抱える課題の萌芽も散見される。この点に留意しながら、江陵の市民活動等を中心に資料収集と現地調査を進める予定である。 3、北京オリンピック研究:北京冬季オリンピックについては、今年度現地調査は予定していないが、今後とも継続的に基本的な資料情報収集を行なう。また、北京や中国における社区体育の状況についても、基礎資料の収集につとめオリンピックのスポーティング・レガシーを分析していく。課題としては研究上のカウンターパートが本年定年を迎えるため、新たなカウンターパートを確保する必要がある。困難な場合には、現地在住の日本人研究者に協力を得る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平昌調査において現地での通訳や調整のために1名の協力者の同行を予定していたが、急遽その研究者の予定が変更になったため、全日程分の旅費、謝金(計20万円)が未使用となってしまった。また、英国への調査を予定していたが、中国に調査地を変更したため、その差額が生じた。加えて、現地調査用にノートPC を購入予定であったが、現有品で賄うことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、図書費9万円(ロンドン、北京、平昌オリンピック関係洋・和書)、消耗品2.5万円(データ保存用メディア、コピー用紙)、外国旅費75万円(英国1名;35万円、韓国20×2名;40万円)、人件費謝金8万円(現地通訳・翻訳等)、その他1万円(通信費)を予定している。
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