研究課題/領域番号 |
15K01607
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
大沼 義彦 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (70213808)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オリンピック / レガシー / 開発 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、(1)2012年ロンドンオリンピックを契機としたレガシー研究の動向調査、並びにスポーツとジェンダーに関する研究集会の開催、(2)2018年平昌冬季オリンピック開催までの研究の整理ととりまとめを行った。 1. レガシー研究の動向:ロンドン大会後のレガシー研究については、(1)オリンピックによる再開発の評価、(2)オリンピック後のスポーツ参加率や政策に関する研究が提出されてきている。とくに、前者においてはイーストロンドンの低所得層の立ち退き、公共住宅政策の変容、ジェントリフィケーションの問題などが指摘されている。また後者においては、オリンピック開催によるスポーツ参加を促進するデモンストレーション効果は認められつつも、実際のスポーツ参加に結びつけることの困難さが報告されている。当初の意図されたレガシーを実現することの困難、政策的課題が浮き彫りになってきている。 2. ロンドン大会後のスポーツとジェンダー:ロンドン大会を通じて女性アスリートの表象の変化のみならず、女性アスリートの具体的な経験(女性らしさと筋肉、障害者、LGBT等)が報告されるようになってきている。そのことが、大きな社会的影響力をもち、スポーツとジェンダーに対する理解へのつながってきていることが示唆された。ただし、実際の女性のスポーツ参加やその改善にはさらなる課題があることも示されてきている。 3. 2018年に開催された平昌五輪については、開催までの地域的対応について行政資料等の取りまとめを行なった。雪上会場の平昌郡と氷上会場の江陵には行政的課題には差異があったが、それぞれリゾート開発、都市再開発という文脈の中で冬季オリンピックをどう位置づけるのか、オリンピック後のあり方という点で大きな決定や課題を抱える大会となっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初の研究課題は、(1)英国におけるオリンピック研究、とくにレガシー研究とジェンダーや障害者スポーツに関する研究を英国における経験や研究蓄積を参照しながら検討すること、(2)平昌オリンピックの継続調査であった。 1. 英国におけるレガシー研究:レガシー研究のレビューがいくつか公表されてきており、これらを入手・分析することにより、ロンドンオリンピックの実際のレガシーの輪郭が具体的に把握可能になった。レガシー戦略の成果としては、プライベートセクターの成長、観光消費の増大、イーストロンドンの再開発事業があげられるが、とくに再開発事業における低所得者や若者の問題が指摘されており、オリンピック開発のダークサイドも含めた検討が可能になった。 2. 国際研究セミナーを開催し、オリンピックとジェンダー、障害者スポーツに関する英国での経験、および研究上の課題について討議することができた。オリンピックへの女性の参加から、英国社会における女性スポーツや障害者スポーツへの認識の変化に至るまで、その画期となった研究成果によりながら検討することで、新たな視角を得ることができた。さらに日英の女性スポーツ史研究の成果を比較することで、ある通文化的な課題に接近することが可能になった。 3. 平昌オリンピックについては、調査研究協力者の関係で現地調査を実施することができなかった。この点は、大会後の社会的変化等も含めて次年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であることから、オリンピック・レガシーの実像と評価(ロンドンオリンピック)、ポスト・オリンピックの課題(平昌オリンピック)をテーマに、スポーツのレガシーと都市開発等との関連を視野におきながら、研究の取りまとめを行う。 1. 英国におけるオリンピック研究:スポーツのレガシーとして当初は大会が健康やスポーツ参加の増大につながることが示されていたが、現在のところ各種データはそれを十分支持するものとはなっていない。これらはレガシー戦略の再検討をすでに含意していると考えられる。今年度は、研究の取りまとめを行う上で、関連研究者を招聘し、オリンピックにおけるスポーツのレガシーやその戦略における課題について、再検討も含めた議論を行い、東京大会やオリンピックのレガシーについて論点や課題を整理していく。 2. 平昌オリンピック研究:大会後の江陵市の再開発、大会後の施設利用について、市民的対応という視点から調査していく。ここでは、継続的に調査に対応いただいている現地NPOの活動を中心に整理し、オリンピックの経験、地域におけるスポーツのレガシーについて検討していく。英国の経験、東京大会への見通しを含めて、研究討議の場を設定し、オリンピック後のスポーツのレガシーについて検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた洋書の発行年が変更となり、年度内に入手することができなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度分として図書資料(洋書)購入にあてる予定である。
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