昨年度に引き続き、海馬における成長因子の産生に対するアンギオテンシンII(Ang II)の効果を検討し、Ang IIはラット海馬のアストロサイトで血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生を高めることを生化学的、免疫組織化学的に明らかにした。またこの効果は、カンデサルタン存在下で打ち消されるので、この産生亢進は1型受容体を介していると考えられる。一方で、VEGFとともに強力な神経新生促進因子である脳由来神経成長因子(BDNF)の発現には影響を与えなかった。このことから、Ang II-AT1Rシグナルは、海馬アストロサイトのVEGF産生に限って影響を与えている可能性が高い。 海馬神経新生が高まった個体では、神経伝達および海馬依存学習能が高まることが報告されている。そこで、薬理的および運動によってAng II-AT1Rシグナルを活性化させ、これらに対する効果を検討したが有意な効果は認められなかった。 血液脳関門の透過性に対する運動およびAng II-AT1Rシグナルの関与については、当初、生化学的解析を中心に検討を進める予定であったが、目的タンパク質の発現レベルが低いために、新たな形態学的手法を開発し、この方法で解析を進めた。血液脳関門を通過しない色素を血中に投与したところ、海馬の介在ニューロン様および新生細胞様の細胞がこの色素を細胞内に取り込んでいた。また、こうした細胞は海馬の吻側に局在し、尾側にはほとんど認められなかった。また、いずれの細胞も伸長する突起の長さが短いことが考えられるので、こうした血中からの色素の漏出は、これらの細胞の神経突起が分布するごく周辺部に限って起こっている現象であると思われる。
|