研究課題
弾性線維腫は高齢者の肩甲骨下、前腕伸側等に生じる遺伝性の高い良性腫瘍で、肩を使う肉体労働者に多く、長期のずり応力が線維腫の増大を助長するが、その原因遺伝子や本態は明らかでない。弾性線維腫の本態の解明は、臨床的に酷似する他の疾患との鑑別に有益となり、その治療法の確立にも寄与する。さらに肩を使用するスポ-ツ障害のメカニズムや、加齢に伴う運動器疾患の解明に繋がると考えられる。一方沖縄県での調査によると、特に渡名喜島では21例の、また県全体で170例中55例の家族発生が報告されており、遺伝的背景を持った疾患であることが伺われる(Nagamine et al., Cancer,1982)。この遺伝子を解明すべく、上記論文の著者である長嶺信夫博士や渡名喜診療所の佐久川俊樹医師らの協力を得て、2014年6月から渡名喜島での調査を開始した。その結果3世代にわたる5家系を見出し、その中の25人の罹患者と33人の非罹患者とを一時的に同定した。そのDNAをGWAS(genome-wide association study)解析を行い、罹患遺伝子の候補を探索した。その結果1領域でp値10-6オーダーの候補遺伝子が見出され、有力な候補領域とされたが、確定ではない。その理由として、陰性と診断された人の中には、リスク遺伝型を所持しながら未発症もしくはごく軽症の人が存在する可能性があり、しかも、その発症比率(浸透率:この場合は労働負荷の有無や程度)が不明であることが考えられた。そこで、今回は、画像診断に重点を置き、陰性と診断される人を可能な限り増やそうと試みた。その結果3名の診断が変更され、不確定であった3名が陰性と確定できた。CTで確認後の陰性例は全部で15人、確実陽性例(CT確認例および触診確実例)は22人となった。今後は、画像診断を受けた人を中心に、渡名喜島および粟国島での検診を継続したい。
2: おおむね順調に進展している
当初の最大の研究目的には、遺伝子を確定することであり、罹患者、非罹患者ともに、支障なく協力が得られた。しかし、まだ親子、兄弟での信頼できる罹患、非罹患の家系が、少ない。今後は画像診断の助けも借りて、高齢でかつ確実陰性例を増やしていきたい。
(1)候補遺伝子が確定した場合は、NGS(次世代DNAシークエンサー)で解析する。(2)細胞培養とRNA解析 適宜手術される症例について、患者さんの同意のもとに、摘出組織からmRNAを抽出し保存する。健常部を対照として、その部からもmRNAを抽出し保存する。摘出組織からマイクロアレイ用に培養細胞作成を行う。そこからmRNAを抽出する。この場合にも、健常部を対照とする。(3)プロテオーム解析用標本保存と解析 摘出組織の病変部と健常部に分けて、凍結保存する。培養細胞についても病変部と健常部由来に分けて、凍結保存する。(4)適宜手術で摘出された弾性線維腫を、新機軸走査型電子顕微鏡(FIB/SEM tomography)により、観察し、その線維形態と線維芽細胞との関連を追求する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 備考 (1件)
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