研究課題
1. 運動能力における直接preconditioning効果の検証:この研究では、直接preconditioningが最大筋力/筋疲労に与える効果と必要回数を検証したが、施行回数によらず明らかなパフォーマンス向上効果は得られなかった。この実験のpreliminaryデータは、昨年の日本体力医学会で発表したが、最終データは今年度の日本体力医学会で発表予定であり、また国際論文として投稿準備中である。2. 運動能力における遠隔(間接的)preconditioning効果の検証:直接と同様に施行回数によらず明らかなパフォーマンス向上効果は得られなかった。1と合わせて、発表予定である。3. 虚血を併用した運動トレーニング効果のメカニズムの解明:虚血を併用した低強度レジスタンス運動と低酸素環境での低強度レジスタンス運動による筋力、筋形態および血液生化学指標への影響を比較し、虚血を併用した運動トレーニングが筋肥大を導く要因の解明を試みた。被験者を無作為に常酸素対照群(21%)、常酸素血流制限群、低酸素対照群(12.8%)、低酸素血流制限群に分けて右下腿のトレーニングを4週間行った。→いずれの4つの条件においても筋力・筋量の有意な増加がみられ、増加度において条件間の違いはなかった。これらの結果から,4週間の低強度レジスタンストレーニングにおける虚血の併用および低酸素環境の付加による筋肥大および筋力増大の上乗せ効果は得られないことが示唆された。4. preconditioningの疲労耐性への効果:特に疲労耐性への効果を検証するため、両下肢にpreconditioningを施行し(直接効果)、連続ジャンプを行う実験も施行し、結果を解析中である。5. preconditioningとNO(nitric oxide)供与体(食事性硝酸塩)の併用効果を検証中である(後述)。
2: おおむね順調に進展している
1. 「直接的および間接的preconditioning」については、綿密な実験であったにも関わらず当初の予想と異なり、先行研究のような有効性は得られない可能性が示された。この理由の一つとして、今回用いた大腿筋の筋量が先行研究で多く用いられている上肢筋より遥かに大きいことが考えられた。そこで、骨格筋のpreconditioning機序として考えられている虚血によるNO(nitric oxide, 一酸化窒素)増加に注目し、虚血下のウオーミングアップ運動とさらに食事性NO供与体(硝酸塩)であるビートルートジュース(BJ)投与の併用を考案した。両研究は、現在進行中である。さらに、疲労耐性への効果について、preconditioningを両下肢に施行し、筋力測定ではなく、より実際の運動・スポーツパフォーマンスに近い「連続ジャンプ」におけるジャンプ高の維持を測定することで検証中である。さらにこの測定系においてもBJの上乗せ効果を検証中である。2. 成果公表としては、2016年の日本体力医学会(岩手県)においてIPC効果および必要回数に関するpreliminaryデータを公表し、本年は追加検討を含めたデータを日本体力医学会(愛媛県)、日本臨床スポーツ医学会(東京都)で発表予定である。 すでに終了している「間欠的虚血(血流制限)を併用した運動トレーニングの有効性」については国際学術雑誌へ投稿中である。また「骨格筋のコンディショニングと健康状態を反映するバイオマーカーの探索」に関したデータは、2016年度のアメリカ心臓病会議およびヨーロッパ心臓病学会において公表している。また両下肢麻痺(脊随損傷)患者における運動療法の効果をバイオマーカーにて評価した成果をArch Phys Med Rehabil(IF= 2.565)に掲載した。また関連の研究を複数の学会と学術誌で公表できている。
我々が用いた実験系においては、大腿筋のpreconditioningによるパフォーマンスの向上はみられなかった。preconditioningが有効性を表すには、条件が必要である可能性が推測されたため、それらの検証も踏まえた研究を以下のように計画し、発展させる予定である。1. preconditioningが効果を示す機序:その一つに、虚血によるNO(nitric oxide)産生増加が考えられ、作用の程度にはNOを遊離する供与体である硝酸塩(nitrate)および亜硝酸塩(nitrite)の体内濃度が影響している可能性がある。ゆえに硝酸塩を含むサプリメント(beetroot juiceなど)摂取を組み合わせた実験を考案し、実行中である。2. 疲労耐性に特化した実験系:大腿筋のような大筋群では、筋量あるいは筋線維組成の違いのためか、最大筋力におけるpreconditioning効果得られない可能性がある。ゆえにpreconditioningの実用性について、疲労耐性に焦点を当てて検証していく。3. preconditioningによる臓器保護効果の検証:前述の結果をもとに、臓器保護効果の可能性を追求する。激しい運動では、筋痛や損傷が起こり、損傷の場合は、その程度に相応して血中クレアチンホスホキナーゼ(CPK)や乳酸脱水素酵素(LDH)などが上昇する。preconditioningによりこれらの上昇や筋痛が軽減できるかどうかを検証する実験を行う予定である。4. 臨床現場における応用:前述の研究において明らかな有効性が確認できた場合、現場に応用してもらうための簡易型機器とプロトコールを考案する。5. 国際論文などにおける積極的な成果公表の継続を計画している。特に先行研究と異なる知見について学会および学術雑誌における結果の公表を適宜行い、研究成果のpriorityを確保していく。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 図書 (1件)
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