研究課題
白色脂肪組織(以下、脂肪組織)は、運動トレーニングや肥満によって再構成(リモデリング)を起こす可塑性の高い臓器である。この脂肪組織のリモデリングには、脂肪細胞とそれを取り巻く細胞外マトリックス(ECM)との相互作用が重要な役割を果たしていると予想される。申請者は、運動トレーニングや肥満による脂肪組織のリモデリングに対するECMの役割について、組織線維化関連サイトカイン・トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)とECM分子・tissue inhibitor of metalloproteinase 1(TIMP1)に着目し検討を行っている。平成27年度は運動実験などを中心に行った。4ヵ月間の高脂肪食摂取により肥満・全身のインスリン感受性の低下を呈したマウスの内臓脂肪組織では、TGF-βとTIMP1遺伝子の発現が対照群に比べて有意に増加したが、運動トレーニングはこれらを有意に減弱させることが確認された。また、TIMP1は、脂肪細胞おいてTGF-βによって発現が誘導され、インスリンシグナルを減弱させたことから運動トレーニングのインスリン感受性増加作用にTGF-β-TIMP1経路の制御が深く関与していると推測された。さらに、TIMP1の作用を発揮するシグナル伝達経路を同定する目的で、TIMP1と相互作用するタンパク質の同定を試みたところ、TOM70タンパク質などのいくつかの候補タンパク質がみつかった。さらに研究を進め、脂肪組織におけるTGF-β-TIMP1経路の機能が明らかになれば、運動の肥満改善効果について新たな知見を示すことができるだけでなく、TGF-β-TIMP1経路が肥満・2型糖尿病の改善のための新たなターゲット分子になり得る可能性があると思われる。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の検討から、4ヵ月の高脂肪食を摂取させて肥満と全身のインスリン感受性の低下を示したマウスの内臓脂肪組織では、ECM分子・TIMP1と、脂肪細胞においてTIMP1の発現を増加させるTGF-βの遺伝子発現が増加するが、これらの増加を自発運動走による運動トレーニングが減弱させることが確認できた。さらに、TIMP1は脂肪細胞のインスリンシグナルを減弱し、糖取り込みを抑制することが明らかになったことから、脂肪細胞においてTMP1の作用を発揮するシグナル伝達経路を解明するため、GST-pull down法と質量分析機を用いてTIMP1と相互作用するタンパク質の同定を試みた。その結果、ミトコンドリアへのタンパク質輸送に関与すると報告されているTOM70や核膜の構造維持および転写制御を行うラミンなどのタンパク質が候補として同定された。今後、さらなる解析を行い、TIMP1と相互作用するタンパク質の同定とTMP1の作用を発揮するシグナル伝達経路の解明を目指したい。以上の結果は、TGF-β-TIMP1経路がインスリン抵抗性の惹起に関与し、運動トレーニングはそれを減弱させることを示唆するものであり、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成に有用な知見であることから研究の達成度はおおむね順調であると思われる。
1. 脂肪細胞におけるTIMP1作用のシグナル伝達経路の同定平成27年度の実験で同定されたTIMP1と相互作用するタンパク質の同定をさらに進めていく。グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)とTIMP1の融合タンパク質を精製し、3T3-L1脂肪細胞もしくは脂肪組織からのタンパク質抽出液と反応させた後に、TIMP1と結合する可能性があるタンパク質を抽出し、質量分析装置を用いて更なる同定を試みる。同定後、実際にTIMP1と結合するかをGST pull down アッセイまたは免疫沈降法で確認する。同定されたTIMP1結合タンパク質が概知のシグナル伝達の中間因子等であった場合は、その下流のシグナル伝達因子の活性化をWestern blot法などで確認する。また、既知ではない新たなタンパク質であった場合は、GSTと TIMP1結合タンパク質の融合タンパク質を作製して、上記の方法でさらに下流のシグナル伝達因子の同定を試みる。2. 脂肪細胞におけるTIMP1のシグナル伝達経路活性化の検討脂肪組織におけるTGF-β-TIMP1経路の影響を解明するため、TIMP1の全長cDNAを組み込んだレンチウイルスを作製する。このウイルス3T3-L1細胞に感染させ、TIMP1高発現3T3-L1細胞を樹立する。樹立されたTIMP1高発現3T3-L1細胞でインスリンシグナルの減弱を確認した後、上記1の検討で同定されたTIMP1作用のシグナル伝達経路が活性化されているか検討する。さらに、TIMP1遺伝子に対するshort interference RNA(siRNA)を作製し、3T3-L1細胞にリポフェクション法を用いて導入したTIMP1低発現細胞も樹立し、逆にTIMP1のシグナル伝達経路が減弱するかを確認する。
割引き等のため消耗品にかかる費用が当初の予想よりも若干低かった。
新たに別の消耗品のために使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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