研究課題
平成27年度は、高血糖によるマクロファージ(MФ)の炎症性応答能亢進におけるヘキソサミン代謝経路の役割を明確にするため、マウス腹腔滲出MФを採取して5.5 mMまたは25 mMの各グルコース濃度条件下で培養した後、タンパク質のO-結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)修飾レベルおよびリポ多糖(LPS)刺激による炎症性サイトカインの産生誘導を比較・検討した。MФのタンパク質O-GlcNAcレベルは高グルコース培養により明らかに高まったが、LPS刺激による炎症性サイトカインの産生誘導は影響を受けなかった。さらに、LPS認識後のToll様受容体4(TLR4)下流の細胞内シグナル伝達を担うIκBαおよびNF-κBのリン酸化も高グルコースの影響を受けなかったことから、高血糖におけるMФの炎症性応答能亢進には、ヘキソサミン代謝経路の代謝量増加とそれに伴うTLR4下流シグナル伝達タンパク質のO-GlcNAc修飾亢進は関与していないと推定される。一方、インスリンは骨格筋や脂肪組織の糖取り込みを促進するだけでなく、MФに対して抗炎症作用を有することが報告されている。本研究では、インスリン刺激によるMФのAktのリン酸化は高グルコース培養により明らかに抑制されることを明らかにした。この結果より、高血糖によるMФの炎症性応答能亢進にはインスリン感受性低下が深く関わっている可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画を実施した結果、高血糖におけるMФの炎症性応答能亢進には、ヘキソサミン代謝経路の代謝量増加とそれに伴うTLR4下流シグナル伝達タンパク質のO-GlcNAc修飾亢進は関与していないことが示唆された。この結果を踏まえて、本研究ではMФに対するインスリンの抗炎症作用に着目し、インスリン刺激によるMФの細胞内シグナル伝達系の活性化に及ぼす高グルコース培養の影響を検討した。その結果、インスリン刺激によるMФのAktのリン酸化は高グルコース培養により明らかに減弱したことから、糖尿病で認められる全身性慢性炎症にはMФのインスリン感受性低下が関与している可能性が示唆された。さらに、平成28年度に予定していた2型糖尿病モデルdb/dbマウスから採取したMФの分析もすでに開始している。以上のように、本研究はTLR4からインスリン受容体の細胞内シグナル伝達系に研究対象を変更するに至ったが、糖尿病におけるMФの炎症性応答能亢進のメカニズム解明に向けて「おおむね順調に進展している」と判断できる。
平成28年度は、MФに対するインスリンの抗炎症作用に及ぼす高血糖の影響とヘキソサミン代謝経路の役割を明らかにするため、マウス腹腔滲出MФを採取して5.5 mMまたは25 mMの各グルコース濃度条件下でインスリン刺激を行った後、リポ多糖(LPS)刺激による炎症性サイトカインの産生誘導を比較・検討する。さらに、2型糖尿病モデルdb/dbマウスと正常db/+マウスからそれぞれ腹腔滲出MФを採取し、インスリン受容体下流シグナル伝達タンパク質のO-GlcNAc修飾レベル、およびインスリン刺激によるAktのリン酸化とLPS刺激による炎症性サイトカインの産生誘導を比較・検討する予定である。
平成27年度の研究計画を実施した結果、LPS刺激によるマウス腹腔滲出MФの炎症性サイトカインの産生誘導とTLR4下流シグナル伝達タンパク質のリン酸化は高グルコース培養の影響を受けないことが明らかとなった。そのため、当初予定していたO-GlcNAc修飾の各種調節酵素のRNA干渉および強制発現等の実験は行わなかった。これらの実験に必要な実験消耗品(低分子干渉RNA、DNAクローニング試薬、遺伝子導入試薬)として当初計上していた経費は、インスリン受容体下流シグナル伝達タンパク質の分析に必要な抗体などの購入のために使用したが、次年度使用額が若干生じる結果となった。
平成28年度の研究計画の実施に必要な実験消耗品(滅菌済・ディスポーザブルプラスティック製品など)を購入するために使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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