研究課題/領域番号 |
15K01638
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
寺田 和史 天理大学, 体育学部, 准教授 (40454798)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 筋力トレーニング / 鍼 / 無作為化比較対照試験 / 経穴 / 自重 / 自覚的運動強度 / 円皮鍼 / 介入 |
研究実績の概要 |
本研究の全体としての目的は、筋力トレーニング実施期間中に鍼治療(円皮鍼)を用いたセルフケアを加えることで、それを加えずにトレーニングした場合と比較して、トレーニング効果が上回るかどうか明らかにすることである。昨年度は、日常的に筋力トレーニング(Tr)を行っていない男子大学生を対象として、円皮鍼を貼付したまま4週間、毎日1セットの自重のみでのスクワット動作によるTrを行う群と、円皮鍼を貼付せずに同様のTrを行う群の2群による無作為化比較対照試験を予備的に実施した。その結果、主要な測定項目の変化には両群間で違いが認められなかったものの、Tr実施時のスクワットの最大可能回数においては、両群間の介入開始直後と介入終了直前のスクワットの回数に交互作用が認められた。 H28年度は上記の結果をふまえ、H27年度と同様の若年者を対象に、より筋力トレーニングの効果の出現が期待されるよう介入期間を8週に伸ばし、かつ、筋力などのより客観的な測定項目を追加し、さらに鍼施術による心理的な影響を除外するために、鍼先の無い円皮鍼をプラセボ鍼として用いた無作為化比較対照試験を実施した。その結果、右外側広筋厚、左外側広筋厚、垂直跳において群と介入期間で交互作用が認められた。また、介入終了後、両群の対象者に自分に対して使用された円皮鍼には鍼先があったか無かったかどちらだと思うか(真の鍼か偽の鍼か)について質問紙により尋ね、その回答結果と実際に使用された鍼との一致度を、κ係数を算出し確認したところ、一致度は低いと判断された。 したがって、本研究で用いた筋力トレーニングに円皮鍼によるケアを加味した介入は、若年者の自重による下肢の筋力を向上させることに影響を及ぼす可能性が示唆された。また、実際の鍼を使用されたことと鍼刺激を受けた実感との一致度の検討から、プラセボ鍼による鍼刺激のマスキングは成功しているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、様々な年代の非トレーニング者を対象として、筋力トレーニング(Tr)と鍼治療による身体のケアの両方を実施することが、下肢筋機能の向上等に相乗的な影響を及ぼすかどうか明らかにすることを目的として計画されている。H27年度については、本研究遂行の蓋然性の確認を含めた予備的な検討としたことから、本研究で用いたTr方法に対するトレーナビリティが高く、なおかつTrに伴う有害事象等に対する適応力が高いと考えられる若年者を対象として無作為化比較対照試験を行うことを目的として実施した。しかし、筋力トレーニングの影響を観察するには介入期間が4週間と短く、さらに、Tr効果を評価する客観的指標についても少なく、また、鍼刺激の心理的影響について考慮されていなかったこともあったことから、H28年度については、これまでの検討よりも介入期間を8週と延長し、なおかつ筋力や筋厚などのより客観的な測定項目を追加し、加えて鍼先の無い円皮鍼を用いることでいわゆるプラセボ効果を極力除去できるような検討を、新たな対象(若年者)を用いて行った。 その結果、介入の効果については新たに加えた客観的な指標により確認することができ、また、鍼による心理的影響についても除外できたとみられることから、研究目的の検証については概ね順調に進んだものと考えている。ただし、両群ともに有害事象とまでは呼べないがTr実施により少なからず遅発性筋痛の発生が認められることから、今後、若年者以外の年代として中高年者や若齢者に同様の内容の介入を行えるかどうかについては、安全性の観点から検討が必要であると考えられた。また、群により、遅発性筋痛の発生程度に差が生じているかどうかについての客観的な検討を加える必要もあると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の計画として、H29年度は、当初予定では中高年者に相当する年代を対象とした検討を行う計画であったが、既述のように若年者に対する介入の中で遅発性筋痛等の症状が発生していることから、基本的にはH28年度に引き続き、H29年度についても若年者を対象とした検討を行い、鍼刺激を用いた介入によるTr効果についてのさらなるデータの蓄積を図る。さらに、中高年者を対象とする介入手段の開発を検討するために、鍼刺激が筋痛やTr効果に与える影響や、若年者以外の年代でも安全にTrを行うことのできる強度の閾値についての検討を加えることを考えている。現在、その方法・手段について検討を進めているところである。 また、今年度にはこれまでの研究成果を包括的にまとめ、最終的にその公表についても行う。具体的には、3年間の成果を取りまとめ、その研究成果を可能な限り国内および国際学会等で発表し、さらに学会誌に投稿するなどして本研究遂行により得られた知見による学術的利益を広く社会に還元する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、まず、初年度であるH27年度の交付決定が11月下旬で年度末までの期間が短かったことなどから研究計画の見直し等が生じ、交付された額の大部分を当該年度中に使用できなかったことが挙げられる。H28年度中の使用額は研究遂行により当初予定より多くなったが、既述の通り初年度における次年度(H28年度)使用額が大きかったことからなお額が残り、結果的に次年度(H29年度)使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、当初予定されていた内容に加えた別の検討についても行われる可能性があるため、本年度に生じた次年度使用額を合わせた額を有効かつ計画的に使用する予定である。使途としては、筋力トレーニングの効果を評価するための測定機器の補充、円皮鍼など介入に必要となる消耗品類の購入、会議及び調査旅費、謝金等の人件費などを予定している。さらに、それまでの研究期間内に得られた研究成果についての国内外での発表に係る参加費および旅費、論文の作成および英文校正、雑誌投稿代などの費用についても助成金から支出する予定である。
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