研究課題/領域番号 |
15K01642
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
土持 裕胤 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (60379948)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Exercise pressor reflex / muscle afferents / autonomic nervous system / cardiovascular system |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、TRPV1チャネル発現神経が動的運動時の血圧・心拍数応答に及ぼす影響を調べた。あらかじめ動脈血圧測定用圧送信機を埋め込んだ雄ラットをトレッドミル上で異なる走速度で走らせた際の血圧・心拍数応答を計測した。その後、走運動時の下肢活動筋群を支配する感覚神経が含まれる両側の坐骨神経へカプサイシン、RTX(TRPV1チャネル選択的アゴニスト)、IRTX(TRPV1チャネル選択的アンタゴニスト)のいずれかを投与し、3-4日の回復期間の後、再びトレッドミル上で走らせた際の血圧・心拍数応答を計測し、薬物投与前後での血圧・心拍数応答の差異を調べた。その結果、昨年と同様再現性のある結果が得られた。 次に、感覚神経を分類する際に良く用いられる、isolectin B4 (IB4)をターゲットとした。これまでと同様、ラットをトレッドミル上で走らせ、血圧・心拍数応答を計測したのち、ターゲットトキシン IB4-Saporinをイソフルラン麻酔下ラットの左右坐骨神経へ0.002mgずつ注入した。3-4日の回復期間後、再びトレッドミル走を行わせた。また、トレッドミル走は全身性の運動であるため、活動筋が下肢に限局されないため、IB4-saporinを片側の坐骨神経にのみ投与し、麻酔下でラミネクトミーを行い、除脳・無麻酔標本にて坐骨神経の電気刺激による昇圧・頻脈応答を左右の坐骨神経で比較した。どちらの実験においても、IB4-saporin投与は血圧・心拍数応答に影響を及ぼさなかった。現在、投与方法や投与量が最適かどうかを検証中である。 感覚神経の化学的除神経後に、神経機能を電気生理学的に評価する計画であったが、カルシウムプローブ G-CaMPを用いることで後根神経節ニューロン活動を光学的に計測可能であると考え、G-CaMP発現マウスの繁殖を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、骨格筋を支配する感覚神経由来の循環調節メカニズムに関しては、技術的な問題から、主に静的筋収縮に対する神経の応答を研究対象としてきた。しかしながら我々の日常活動は主に動的な動きの組み合わせであることから、本研究ではあえて動的運動モデルを用いて実験を行っている。幸いにも昨年度の実験においてTRPV1チャネルのアゴニスト、アンタゴニスト投与実験では全身性投与および坐骨神経内投与のどちらにおいても理にかなった結果が再現性良く得られた。しかしながら今年度に行ったターゲットトキシンIB4-saporinの坐骨神経内投与によるIB4発現神経の除神経は、動的運動時の血圧・循環応答に顕著な変化をもたらさなかった。この結果が正しいかどうかを判断するために、ターゲットトキシン投与量を複数試したり、より詳細にターゲットトキシンの効果を調べるために、坐骨神経の電気刺激に対する循環応答を計測するなど、全身性の動的運動以外のプロトコールを組み合わせる事により、慎重に実験を進めている。そのため、 また、昨年度に着想し、今年度の概要にも書いたように、感覚神経活動を光学的に計測するために、神経にカルシウムプローブ G-CaMPを発現する遺伝子改変マウスを理研BSIから分与して頂き、繁殖を開始した。この方法が成功すれば本研究計画で行う予定であった神経活動の電気生理学的計測法よりも格段に研究効率が上がるだけでなく、これまで非常に困難であった、複数の神経活動の同時計測が可能となるはずである。現在G-CaMPシグナルを計測する二光子励起顕微鏡システムを持ち合わせていないが、他の研究室の装置を借りて実験を行う方向で準備を進めている。このマウスの譲渡手続きおよび検疫、繁殖に予定よりも時間がかかった。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは当初の計画から遅れているため、TRPV1チャネル発現神経の評価において未検討である静的筋収縮に対する評価、およびIB4発現神経の評価における静的・動的運動時の役割の評価を終わらせる。次に、Nav1.7、1.8チャネルおよび酸感受性イオンチャネルASIC3発現神経についても時間の許す限り同様の手法にて評価を行う。また、ターゲットトキシンの効果判定のために、後根神経節を摘出し、固定後、透明化処理を行い、免疫染色にて各々のターゲットトキシンが狙い通りに除神経を行えているかどうかを検証し、循環応答と除神経の関係を調べる。後根神経節は小さいので、透明化処理後に共焦点レーザー顕微鏡で観察することで、3次元的な解析が可能となる。 神経活動の評価に関しては予定通り電気生理学的手法によりシングルファイバーレベルでの評価を行う予定である。神経活動計測に関する準備は済んでいるため、ポジティブな結果が得られているTRPV1チャネル発現神経に関して、最初に実験を開始する。電気生理学的手法による感覚神経活動計測は数十年前に確立された手法でり、中動物に対しては有効であったが、ラットやマウスのような小動物では技術的難易度が上がり、効率が悪い。したがって、電気生理学的計測と並行して、『進捗状況』にも記載した、G-CaMP発現マウスを用い、後根神経節ニューロンの神経活動を複数同時に光学的に計測する手法の確立を目指す。申請者が所属する施設に遺伝子改変ラットを使って同様の計測を行っている研究者がいるため、助言を受けることが可能である。 近年、ウィルスベクターを用いて神経を選択的に抑制または興奮させる手法が開発されているので、来年度以降の研究の発展性を考え、ターゲットトキシンのみならずウィルスベクターを用いた感覚神経機能操作手法の開発を試みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に生じた残額に対し、緊急に必要な使用目的が無かったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
主に次年度分の消耗品(動物代、ターゲットトキシン、電極材料)または成果発表(学会出張旅費)予算に充てる。
|