本年度の研究においては,研究開始時に設定した研究仮説に基づきデータ解析を実施した。その結果,ソーシャル・キャピタルは,他の変数(性別,年齢,教育年数,Body Mass Index,服薬の有無(高血圧症,脂質異常症,糖尿病),飲酒習慣,運動習慣)を調整してもなお,独立して日常生活における抑うつ状態に影響を及ぼすことが明らかとなった。そして,日常生活におけるストレスに関する自覚症状の有無に基づき層化し,遺伝素因とソーシャル・キャピタルが抑うつ状態に及ぼす影響について解析を行った。その結果,ソーシャル・キャピタルについては,オッズ比の低下が認められた(すなわち、ソーシャル・キャピタルの豊かさが抑うつ状態の低下と関係する)ものの,両者間に有意な関係性を認めなかった。研究開始時に想定した仮説としては,“ストレス有り”群において,ソーシャル・キャピタルと抑うつ状態の関連性がより顕著になると考えていたが,それをフォローする統計学的な知見は得られなかった。しかしながら,オッズ比を見る限りでは,両者間(ソーシャル・キャピタルと抑うつ状態)に有意な関係を認めてはいないものの,想定していた関係性の大きさ(オッズ比の程度)が認められていることから,今後は,分析対象者数を増やした後に,あらためて同様の検討を行うことが現時点においては有益であると考えられた。そうした知見を踏まえて,今後は,生活習慣や遺伝素因のみならずソーシャル・キャピタルなどの社会環境要因を考慮した対策の検討が望まれる。
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