わが国において1990年代より百日咳,インフルエンザ,麻疹など学校感染症が成人に流行し社会問題になっていた。日本は百日咳低罹患率の国の一つだったが,患者数(定点)は2006年から6年間で約2.7倍に増加した。米国では2002年より成人百日咳が増加し集団感染事例も相次いでいた。英国でも2011年より百日咳患者が急増し2000年から12年間で約4.6倍に増加した。また,2009年にはA(H1N1) 2009インフルエンザが日本を含め世界的流行を示し社会的に大きな脅威となった。本研究においては,第一に日本国内の百日咳集団感染事例,および,海外で発生した集団感染事例の比較分析を行った。 そして,数理学的な分析として,SIR法を用いて国内外の集団感染事例のシミュレーションを行い,加えて,非線形回帰分析を行った。第二にインフルエンザ感染の解析を,非線形回帰分析を用いて行い,インフルエンザ流行の収束時期を予測した。そして,平成30年度にはインフルエンザ流行の予測精度を向上させるために,手法として時系列分析,および,重回帰分析を用いて解析を行った,その結果インフルエンザの流行に関連した因子として,様々な環境因子が重要な影響を与えていることを見出した。さらに,どの環境因子の重みが最も重要な影響を及ぼしているかを分析した。環境因子を加えて,インフルエンザの流行の分析を行うと,流行の収束時期や流行のピークをより精緻に予測出来ることが示唆された。本研究では学校感染症を社会問題ととらえ分析し,感染症流行のシミュレーションを行い,予防教育のための流行予測モデルプログラムを作成した。本研究を通して,学校感染症流行と環境をめぐる問題は複雑であり,これから明らかにするべき問題が残されていることが判明した。特に,感染症流行と気象を含む環境との関連性が今後の課題であると考えている。
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