研究課題/領域番号 |
15K01662
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
小林 弘幸 順天堂大学, 医学部, 教授 (50245768)
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研究分担者 |
大谷 悟 了徳寺大学, 健康科学部, 教授 (70211795)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス / 攻撃・社会行動 / 睡眠障害 / 漢方薬 / 半夏厚朴湯 |
研究実績の概要 |
ストレスにより生じる不安、怒りなどの情動障害および睡眠障害に対する半夏厚朴湯の効果について、行動薬理学的、神経生理学的観点から検証した。半夏厚朴湯は、不安神経症などの治療に用いられている漢方薬であるが、作用機序の解明や効果検証の基礎研究はいまだ不十分である。ストレスモデルは、マウスを4~8 週間の隔離飼育(社会的心理ストレス負荷)することにより作製した。ストレスにより誘発された睡眠障害、攻撃性・社会行動性に対する半夏厚朴湯の作用は、行動薬理学的観点からペントバルビタール睡眠試験、social interaction (社会的相互作用)試験を用いて、ストレスホルモンと言われる血液中のコルチコステロン量、脳内(大脳皮質前頭皮質)神経伝達物質の量を測定することにより神経生理学的観点から検証した。 ストレスにより誘発される攻撃行動および社会行動性の低下に対して、半夏厚朴湯は2週間の連続投与により攻撃行動を減少し、社会行動性を増加することが観察された。この作用はセロトニン受容体拮抗薬の投与により消失することから、半夏厚朴湯はセロトニン神経系に作用することが確認され、ストレスにより減少した大脳皮質前頭前野のセロトニン、ドーパミン量を増加することが確認された。また、半夏厚朴湯は、ストレスにより上昇した血液中コルチコステロンを減少し、ストレスによる睡眠障害に対して、減少した睡眠時間を改善することが確認された。 これにより、半夏厚朴湯はストレスなどの心理社会的要因により生じる情動障害および睡眠障害に対して改善作用を示し、ストレスにより生じる障害に対して有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「漢方薬は身体の病変と精神の変調を同時に把握し、心と体は一体のものとして治療する」という概念から、漢方薬の心と体のクロストークに対する作用を分子レベルから研究し、バイオマーカーの検索にも取り組んでいる。とりわけ漢方薬のEvidence-based medicine (EBM)確立に寄与し、新たな治療法を開発していくことを目標に研究を実施している。 不安神経症などの情動障害は、ストレスなどの心理社会的要因によるさまざまなメカニズムが複雑に関与している。多くがピンポイントに作用する西洋薬のみでは、情動障害のように複雑な病因による疾患の治療には難渋すると考えられる。多成分系で多くの作用点を持つ漢方薬はこのような病態に対して有用であると考えられる。 半夏厚朴湯は、不安神経症などの心身症に用いられる漢方薬であるが、作用機序の解明や効果検証の基礎研究はいまだ不十分である。今回、半夏厚朴湯にストレスなどの心理社会的要因により生じる情動障害および睡眠障害に対して改善作用が確認されたことは、漢方薬のEBMに基づいた新たな治療法を提案できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
漢方薬のストレス誘発睡眠障害、情動障害、認知機能および自律神経機能に対する作用、ストレス関連因子の探索を中心にストレスと心と体のクロストークの関連について実施する。 対照群およびストレスマウスの前頭前野皮質から切片を作成して、細胞外電極記録法を用いてシナプス反応(電場電位)を記録し、ストレスのシナプス可塑性誘発への影響を調べる。シナプス可塑性は、高頻度刺激(50-100 Hz)による長期増強(LTP)、および低頻度反復刺激(3 Hz)による長期抑圧(LTD)、の誘発度合によって計測する。さらに半夏厚朴湯が、ストレスによるシナプス可塑性誘発抑制を解消できるかを調べる予定である。
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