研究課題/領域番号 |
15K01662
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
小林 弘幸 順天堂大学, 医学部, 教授 (50245768)
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研究分担者 |
大谷 悟 了徳寺大学, 健康科学部, 教授 (70211795)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス / 攻撃・社会行動 / 不安・うつ / グルタミン酸受容体 |
研究実績の概要 |
初年度はストレス負荷法として「隔離飼育ストレス」を用いたが、今年度は、競争社会である日本社会を反映した動物モデルとして、隔離飼育ストレスよりも優れている「慢性社会的敗北ストレス:chronic social defeat stress」を導入し、研究を行った。 方法として、まず若い成体C57BL/6Jマウスを、CD-1マウスの飼育箱の中に入れ、一日10分間、 CD-1マウスの攻撃に曝した。その後24時間、CD-1マウス飼育箱の中に、C57BL/6Jマウスを放置した。ただし、飼育箱には透明な仕切り板を入れ、CD-1マウスとの接触は視覚・嗅覚・聴覚を通じてのみとし、直接的な接触は起こらないよう配慮した。これを10日間繰り返し、その後ストレスを受けた敗北C57BL/6Jマウスの、他のC57BL/6Jマウスに対する攻撃性と、うつ・不安の計測を行なった。 観測結果として、まず、敗北C57BL/6Jマウスは、攻撃性が有意に高まっていることが観察された。また、敗北C57BL/6Jマウスは、CD-1マウスに対する社会的相互作用:social interactionの低下を見せたことから、不安・うつ状態の亢進が示唆された。さらに、この不安・うつ状態軽減の手段として、まずは漢方薬よりメカニズムが比較的明確な薬物である、代謝型グルタミン酸受容体5型サブタイプ(mGluR5)アロステリック増強薬(allosteric potentiator):CDPPBの効果を調べた。この行動薬理実験の結果は現在解析中であり、最終年度の研究に参照され、上記研究内容、並びに昨年度観測された漢方薬での結果と、今後行う予定である別漢方薬での結果を合わせて、学会発表・論文として報告される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスの動物モデルとして、初年度は「隔離飼育ストレス」を用いて漢方薬の抗不安作用の同定を行なった。昨年度は、現代日本社会を反映する社会ストレス動物モデルとして、「隔離飼育ストレス」より優れている「社会的敗北ストレス」手法を導入した。これは現在大きな社会問題になっている「パワハラ」や「いじめ」の動物モデルである。この手法により、ストレスを与えられたマウスの情動に、異常が認められた。さらにこの情動異常の治療法として、まずは作用点が漢方薬より比較的はっきりしており、他の認知・情動異常で改善効果が認められている、代謝型グルタミン酸受容体5型(mGluR5)のアロステリック増強薬の効果同定を開始している。 昨年度の計画内容であったストレスマウスの脳切片を用いた電気生理学的実験は、実験施設の移転、スペースの問題、および必要な機器準備の困難により、若干の遅延を見せたが、この件に関しては、共同研究を行なう予定である、上海Jiaotong大学チームと推進する準備を、精力的に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
・唾液成分、自律神経機能を用いたストレスの検証 ヒトのストレスの検証として唾液成分、自律神経機能を指標に解析する。 唾液を試料とした測定は、採取が簡単なこと、採取時に侵襲を伴わないこと、汚染の危険性が低いことなどの特徴から、ストレス研究などの分野で注目されている。唾液成分は DHEA(Dehydroepiandrosterone) 、 コルチゾール、分泌型 IgA、α-Amylase、Melatonin、インターロイキン(IL-1β、IL-6)等を ELIZA Kit を用いて測定する。また、ストレスにより誘発される疾患に対する漢方薬の予防効果について検証する。
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