研究課題/領域番号 |
15K01691
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
濱 弘太郎 帝京大学, 薬学部, 講師 (20534481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 副腎白質ジストロフィー |
研究実績の概要 |
副腎白質ジストロフィー (X-ALD) は、脱髄を含む神経症状と副腎の障害を特徴とするX連鎖劣性の遺伝子疾患である。X-ALDの原因遺伝子はABCD1である。本疾患の生化学的特徴として、通常の生体にはほとんど検出されない極長鎖脂肪酸が脳神経系や副腎白質などに蓄積していることが知られており、疾患マーカーとして臨床上利用されている。この極長鎖脂肪酸は、病態の発症や重篤化に大きく関与するものと考えられているが、その分子機序は殆ど明らかにされていない。 我々は、X-ALD患者血漿由来脂質に関して、網羅的MRMおよび定性分析を用いて、患者特異的に増加又は減少しているリン脂質を解析した。 さらに、X-ALDモデル動物であるAbcd1 KOマウスの脳中のグリセロリン脂質を解析し、KOマウス特異的に増加又は減少している脂質分子種を解析した。また、脳脂質の主要構成成分の一つであるスフィンゴミエリン(SM)についても、MS/MS/MSを用いることで、脂肪酸情報を含む脂質分子種の解析を行った。 また、Abcd1の異常によって生じる脂肪酸代謝異常をin vitroで解析するため、CRISPR/Cas9システムを用いて、ヒト癌細胞株において、Abcd1ノックアウト細胞を作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、X-ALD患者血漿由来脂質に関して、網羅的MRMおよび定性分析を用いて、患者特異的に増加又は減少しているリン脂質を解析した。なお、血漿脂質は、採血時の状態によって大きく変動する。特に、血小板の活性化は、脂質組成を大きく変動するので、血小板活性化を反映するマーカーなどの測定を行い、得られた脂質変動が、採血時の状態を反映するものではないことを確認する必要が有る。 X-ALDモデル動物であるAbcd1 KOマウスの脳中のグリセロリン脂質を解析し、KOマウス特異的に増加又は減少している脂質分子種を解析した。また、脳脂質の主要構成成分の一つであるスフィンゴミエリン(SM)については従来、スフィンゴイド長鎖塩基を中心とするフラグメントイオン情報に基づき構造が推定されていた。我々は、MS/MS/MSを用いることで、フラグメントイオン情報を効率良く取得することにより、スフィンゴイド長鎖塩基と脂肪酸情報の両方に基づいてスフィンゴミエリン分子種の決定を行った。 また、Abcd1の異常によって生じる脂肪酸代謝異常をin vitroで解析するため、CRISPR/Cas9システムを用いて、ヒト癌細胞株において、Abcd1ノックアウト細胞を作出した。従来、Abcd1およびX-ALDに関するin vitroの細胞は患者線維芽細胞が主に用いられていたが、増殖能に限界があり、生化学的な解析に制限があった。本ノックアウト細胞により、これらの制限を克服できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、X-ALD患者の血漿脂質解析によって得られた候補分子について、さらに他の患者血漿も解析することで、X-ALD患者の病態進展との相関性を解析する予定である。Abcd1KOマウス脳脂質解析では、極長鎖脂肪酸含有脂質のみならず、他の様々な脂質においても、変動が見られた。この変動が、どのようなメカニズムで起きるか、また、極長鎖脂肪酸の代謝が、細胞内の脂肪酸代謝において生理的条件下でどのような役割を果たしているかという点について、本研究で作出したAbcd1 KO細胞を用いて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究にて用いる遺伝子ノックアウト細胞を作出するにあたり、慎重を期するため、ノックアウト細胞に用いる細胞の選別、クローン化、およびノックアウトに用いる試薬類の選別を厳密に行った。結果的に、全ての過程に関して問題無く進行したものの、その分時間を要した。そのため、初年度に予定していた種類のノックアウト細胞をすべて作出することは困難と判断し、当初購入予定の試薬類のすべてを購入することは差し控えた。そのため当該助成金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり、ノックアウト細胞作製環境は整ったことから、当初予定していた試薬類はすべて今年度中に購入する予定である。また、当初より今年度に予定している研究も合わせて行う。
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