研究課題
肥満症外科治療により長期的な体重減少はもとより、糖尿病や脂質代謝異常症などの合併疾患の臨床的治癒や改善といった効果が期待されるが、それに加えて、高度肥満症者のQOLや認知機能(記憶、注意、セットシフティングなど)の改善も見込まれることが欧米で報告されている。また近年、特に精神神経疾患を対象として、安静時fMRIを用いた病態解明が盛んに試みられるようになっており、肥満患者においても、安静時ネットワークのうち、被殻における顕著性ネットワーク(Salience network)に活動上昇があり、報酬系の異常を反映することが報告されている。この上昇は、認知処理の速度と負の相関を示すことから、基底核回路の情報処理の調節に関与していることが考えられている。さらにBMIと相関して前頭前皮質を中心とした灰白質容積が減少していることから、認知機能の低下と関連している可能性が指摘されている。しかしながら、わが国において肥満症外科治療による認知機能と報酬系脳活動および脳形態の関連性についていまだ報告がなされていない。そこで本研究では、外科治療群(実験群)と外科手術未実施群(統制群)を対象に、抑うつや不安などを評価するために数種類の自記式質問紙、神経心理検査、そしてfMRI検査を、①pre、②post(①から半年後)、③フォローアップ(①から18ヵ月後)の計3時点で行い、2群間における認知機能や脳活動について比較することを目的とした。これまで①~③を終了したのは、外科治療群では8名(うち認知機能のみ終了者3名含む)、未実施群では5名、①~②を終了したのは、外科治療群1名、未実施群1名、また①のみ終了し研究継続中の外科治療群1名であった。
3: やや遅れている
肥満症外科手術の適応があるかどうかの判断を多職種チームによる話し合いで客観的かつ慎重に検討している。対象者の中には重篤な精神疾患あるいは発達障害の者もおり、結果、手術件数が思うように増えず、被験者数の確保が困難であった。また仮に手術が行えたとしても、過体重という肥満症特有の理由から、研究課題であるfMRIによる検査が行えなかったり、あるいは途中で連絡が取れなくなった者もいたりしたため、全体的にゆるやかな進捗状況である。
すでに研究協力の同意を得ている肥満症外科手術群と外科手術を行わない群それぞれの対象者に対して、注意、記憶、セットシフティング、ならびに実行機能などの認知機能検査(神経心理検査)およびfMRIによる脳機能・脳形態の評価を併せて実施する。その後、認知機能ならびに脳機能において、ベースラインから6ヵ月後、フォローアップの各時点での2群間比較、ならびに同一群の中の時間的変化を評価する。また、可能であれば、特に外科手術群のリクルートを引き続き行い、さらなるデータ収集に努力する。
次年度使用額が発生した理由として、研究対象である肥満症外科手術対象者が当初予定していた人数に及ばず、そのため研究協力者への謝金支出がおさえられたことによるものと考えられる。それに伴い、研究比較対象である外科手術を行わない肥満症者へのリクルートを制限したことも相まって次年度使用額が発生したと考えられる。それらの使用計画としては、現在継続中の研究協力者への謝金、国際学会発表のための旅費、あるいは研究成果をまとめ、雑誌投稿のための英文校正および投稿費用等に充てる見込みである。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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