近年、社会環境や生活習慣の変化により世界の糖尿病人口は爆発的に増加している。自覚症状が乏しいまま糖尿病合併症を発症し重症化すると、失明や透析治療が必要となり、生活の質の低下を招く。疫学的研究によると、合併症を有す糖尿病患者において血中プロレニン濃度が2~4倍上昇すること、さらに血中プロレニン濃度が高いとその約5年後に微量アルブミン尿や網膜症の発症率が高いことが報告されている。本研究の目標は、糖尿病合併症を予見する早期マーカー「プロレニン」に対する臨床現場即時検査法の開発である。 プロレニンは、血圧調節酵素レニンの前駆体タンパク質で、プロセグメントが酵素レニンの活性部位を覆い不活性状態になっている。検査法開発にはプロレニンを認識する2種類の抗体が必要である。昨年度はプロセグメント部分を認識する2種類の抗体を同定し、臨床現場即時検査に利用されているイムノクロマト法を実施した。しかし、血中プロレニンを検出できる検出感度を得ることができなかった。そこで今年度は、検出感度の向上を目指し、プロレニンを認識する抗体の組み合わせを再検討し、上記の2種類の抗体に加え、「プロセグメント部分 対 レニン本体部分」の組み合わせを見出した。さらに、臨床現場即時検査法として近年開発された電気化学イムノセンサーを導入した。その結果、検出限界はイムノクロマト法では500 ng/mL、電気化学イムノセンサーでは350 ng/mLであった。糖尿病合併症患者の血中プロレニン濃度は200~400 pg/mLであることから、検出感度の上昇が望まれる。さらに今年度は、組換え型レニン基質を用い酵素活性に基づきレニン濃度を定量する手法を確立した。
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