研究課題/領域番号 |
15K01708
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 佐知子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70447845)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | GADD34 / 炎症 / 大腸癌 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
GADD34 (growth arrest and DNA damage-inducible protein)はDNA傷害、小胞体ストレス、飢餓ストレスなど様々な細胞傷害性ストレスにより発現が誘導されることが知られており、近年、炎症の制御に関与することが示唆されている。本研究ではGADD34の自然免疫応答および炎症関連性癌発症における機能を解明することを目的としている。本年度は、GADD34遺伝子欠損(KO)マウスを用いて炎症関連大腸癌モデルを作成し、大腸癌発症におけるGADD34の機能解析を行った。GADD34KOマウスおよび正常マウス(WT)で、発癌剤であるアゾキシメタン(AOM)と腸炎を誘導するデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与して炎症関連大腸癌モデルを作製し、大腸における腫瘍発生、およびDSS処理後の早期の炎症反応について組織学的解析および分子生物学的解析を行った。その結果、AOM/DSS処理開始後62日において大腸に腫瘍発生がみられたが、腫瘍発生はGADD34KOマウスにおいてWTマウスよりも有意に抑制されることが確認された。また、腸炎を誘導するDSS投与において大腸組織でのGADD34の発現上昇、炎症性サイトカイン(IL-6、TNFα、IL-1β)の発現誘導がみられ、GADD34KOマウスではWTマウスに比べ炎症性サイトカイン産生が有意に抑制された。さらに、DSS投与によりIL-6-STAT3経路の活性化がみられたが、GADD34KOマウスではWTマウスに比べ活性化が抑制され、STAT3が促進する上皮細胞の増殖も抑制されることが確認された。以上の結果から、GADD34が炎症性サイトカイン産生、特にIL-6の産生を促進することにより、DSS誘導性の潰瘍性大腸炎、およびそれに起因する大腸癌の発症を促進することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではGADD34の自然免疫応答および炎症関連性癌発症における機能を解明することを目的としているが、本年度はGADDKOマウスを用いて炎症関連大腸癌モデルを作成し、大腸癌発症におけるGADD34の機能について解析を行った。その結果、GADD34KOマウスではWTマウスに比べ有意に炎症誘導性の大腸癌発症が抑制されることを明らかにした。また、DSS投与による腸炎誘導においてGADD34KOマウスでは炎症性サイトカイン産生および上皮細胞の増殖が抑制されることが明らかとなり、GADD34が潰瘍性大腸炎およびそれに起因する大腸癌の発症を促進するメカニズムを明らかにし、論文発表、および学会発表を行い概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
GADD34は様々な細胞傷害性ストレスにより発現が誘導されることが知られているが、細菌、ウィルス感染による炎症誘導におけるGADD34の機能については十分に明らかにされていない。次年度は、細菌感染による急性炎症誘導におけるGADD34の機能解析を行う予定である。GADD34KOマウスとWTマウスを用いて、細菌感染を模倣する LPS投与の大量投与による生存率の比較、各臓器における炎症状態、さらに、炎症性サイトカイン産生についてin vivoで解析を行う。また、炎症誘導に重要であるマクロファージの機能についてGADD34KOマウス、WTマウスでの腹腔マクロファージ、Kupffer細胞といった様々な組織マクロファージでの活性化メカニズムについて比較解析する。さらに、in vitroにおいてGADD34遺伝子欠損マクロファージ細胞株を作成し、LPS刺激による炎症性サイトカイン産生の解析および、そのシグナル伝達経路におけるGADD34の機能を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に、GADD34KOマウスを用いた炎症誘導性大腸癌および、細菌感染におけるGADD34の機能解析を行ってきたが、慢性炎症または急性炎症を誘導する炎症刺激の違いによりGADD34の機能が異なるという結果が得られた。このことは、GADD34が様々なストレス刺激に対し異なるメカニズムで作用しており、重要な機能を示すと考えられるが、その詳細な分子メカニズムの解明が本年度中に終了せず、一部の試薬購入、論文投稿料等について次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、in vivoおよびin vitroにおける細菌感染におけるGADD34の機能解析を行うことから、GADD34KOおよびWTマウスの維持における餌等の消耗品、また、組織、細胞の炎症状態を調べるにあたりFACS、免疫染色、サイトカイン測定の為の抗体、試薬を購入する。さらに、分子レベルでのメカニズム解析の為にwestern blotting用の抗体、RT-PCRに用いる酵素等を必要とする。また、細胞培養用の血清、培地等を必要とする。さらに、得られた結果を発表するにあたり論文投稿料、および学会発表に使用する予定である。
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