研究課題/領域番号 |
15K01725
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
高橋 和人 杏林大学, 医学部, 助教 (80508292)
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研究分担者 |
石田 均 杏林大学, 医学部, 教授 (80212893)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病性骨代謝異常 / 温熱処理 |
研究実績の概要 |
1. 主要な破骨細胞由来因子TNF-α,IL-1βでUMR106骨芽細胞を刺激した結果、TNF-αでMCP-1(VEGF以外の主要な破骨細胞分化促進・活性化因子)の分泌が、IL-1βでVEGF120(完全分泌型VEGF)が増大した。ただしTNF-αでMCP-1 mRNA発現が、刺激後6時間から24時間まで有意に増大するが、IL-1βでVEGF120を含むVEGF-A mRNAは増大しなかった。従って、高脂血症下で活性化した破骨細胞からTNF-α,IL-1βが分泌され、これらが骨芽細胞からMCP-1,VEGF120分泌を増強し、さらに破骨細胞が分化・活性化される悪循環が糖尿病性骨代謝異常の基盤病態と推察され、またこれらサイトカインの制御機構は相違していると考えられた。 2. 41℃20分間の短期温熱処理で、TNF-α,IL-1βによりUNR106から増大したMCP-1,VEGF120分泌が減弱した。さらに、細胞内のMCP-1,VEGF120蛋白含量も減弱した。しかし、これらのmRNAに有意な変化は認めなかった。この結果は、温熱加療が糖尿病性骨代謝異常の効果的な治療法となることを初めて実証した重要な結果であり、加えて、温熱処理は転写後調節の段階、おそらく翻訳もしくはタンパク折りたたみの段階でこれらサイトカイン分泌を負に制御していると推測された。 3.温熱処理による多様な作用の主幹をなすHSP72の発現は温熱処理UNR106で上昇するが、温熱処理にTNF-α,IL-1βを加えても変化しなかった。さらに、HSP72のsiRNAを使用したRNAi実験において、HSP72がノックダウンされた状態でも、温熱処理は有意にMCP-1,VEGF120分泌を減弱させた。従って温熱処理によるTNF-α,IL-1β刺激性MCP-1,VEGF120分泌の減弱に対するHSP72の影響は微弱と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
血糖変動状態下でUNR106からのVEGF120分泌は変化しなかった。また、UNR106をパルミチン酸処理しVEGF120分泌に関与する因子を予備的ではあるが網羅的に解析した結果、細胞ストレス、TLR4以外の細胞表面レセプター、PI3K経路以外のシグナル伝達経路の関与は認めなかった。責任転写因子も同定できなかった。特にシグナル伝達経路は、VEGF120関連の有無によらずPI3K経路以外に変化しなかった。従って、パルミチン酸刺激下で増大するVEGF120以外の破骨細胞活性化因子の同定は困難と予想されたため、計画を変更しVEGF120以外の破骨細胞活性化因子の同定のため活性化破骨細胞で増強するTNF-α,IL-1βでUNR106を刺激し、分泌が増大する因子を特定した。結果、IL-1βでVEGF120分泌が増大したがVEGF120を含むVEGF-A mRNAは増大しなかった。一方、TNF-αでMCP-1分泌と刺激後6から24時間までのmRNAが増大した。加えて、41℃20分間の短期温熱処理は、パルミチン酸刺激性VEGF120分泌の増大には影響しなかったが、TNF-α,IL-1βによるMCP-1,VEGF120分泌の増強は有意に減弱させた。さらに、細胞内MCP-1,VEGF120蛋白含量も減弱させた。しかし、これらのmRNAに有意な影響を与えなかった。また、HSP72発現は温熱処理UNR106で上昇するが、これにTNF-α,IL-1βを加えても変化しなかった。さらに、HSP72のsiRNAを使用したRNAi実験においても、温熱処理は有意にMCP-1,VEGF120分泌を減弱させた。一方、mitochondrial uncouplingを模倣するDNP処理及び抗炎症性サイトカインIL-10刺激は、TNF-α,IL-1βによるMCP-1,VEGF120分泌の増強に影響を及ぼさなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで解明した糖尿病性骨代謝異常進展の基盤病態及びその防御作用を、さらに詳細に解析していく。 41℃20分間の短期温熱処理で、TNF-α,IL-1βによりUNR106において増大したMCP-1,VEGF120分泌及び細胞内蛋白は減弱したが、これらのmRNAに有意な変化はなかったため、温熱処理は転写後調節の段階、おそらく翻訳抑制もしくはタンパク折りたたみ障害によりこれらサイトカイン分泌を負に制御していると推測された。従って、分泌タンパクの折りたたみ障害が生じた場合、ERストレスが誘導されるため、eIF2αのリン酸化とCHOP,GRP78蛋白の増大、XBP-1 mRNAのフレームスイッチスプライシングの増強を解析し、ERストレスの誘導を評価する。特に、eIF2αのリン酸化は非選択的翻訳抑制にも関与するため詳細に検討する。 これらに加えて、選択的翻訳抑制の主幹をなすmicroRNAの関与も検討する。初めに、次世代シークエンサーを使用したsmall RNAシークエンスにより網羅的に解析し、UMR106においてTNF-α,IL-1β単独刺激に比較し、これに温熱処理を加えた群で増大するmicroRNAを絞り込む。次にこの増大したmicroRNAをリアルタイムPCRもしくはデジタルPCRを使用し、増大レベルを詳細に定量化する。さらに、これら増大したmicroRNAのinhibitorを使用し、温熱処理によるTNF-α,IL-1β誘導性MCP-1,VEGF120分泌増大の減弱が抑制されるかを評価する。加えて、TNF-α,IL-1β+温熱処理下で、絞り込まれたmicroRNAと関連3’UTRの相互作用を、3’UTRレポーター(ルシフェラーゼ)コンストラクトを使用し解析する。 これらにより、温熱処理によるTNF-α,IL-1β誘導性MCP-1,VEGF120分泌増大の抑制機構を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
インスリン抵抗性改善作用を有するmitochondrial uncouplingを模倣するDNP処理、及び抗炎症作用を有し肥満脂肪組織の慢性炎症を抑制してインスリン抵抗性を改善させうると想定されているIL-10刺激の効果をUNR106で検討したが、TNF-αにより増大したMCP-1 mRNA、細胞内タンパク含量、分泌量に有意な影響を及ぼさなかった。同様にIL-1βによるVEGF120の増大にも影響を与えなかった。今回これらの結果を導くために多くの時間を費やした。また、HSP72のsiRNAを使用したRNAi実験においても、最適siRNA濃度やトランスフェクション法の検討に予想以上の時間を必要とした。これにより、本年度に行う予定であった次世代シークエンサーを使用した実験などの費用のかかる実験の多くを遂行できなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
eIF2αのリン酸化とCHOP,GRP78蛋白の増大、XBP-1 mRNAのフレームスイッチスプライシングの増強を解析し、TNF-α,IL-1β誘導性MCP-1,VEGF120分泌増大の温熱処理による抑制におけるERストレスの関与を評価する。これらに加え、次世代シークエンサーを使用したsmall RNAシークエンスにより網羅的に解析し、UMR106においてTNF-α,IL-1β単独刺激に比較し、これに温熱処理を加えた群で増大するmicroRNAを絞り込む。次にこの増大したmicroRNAをリアルタイムPCRもしくはデジタルPCRを使用し、増大レベルを詳細に定量化する。さらに、これら増大したmicroRNAのinhibitorならびに3’UTRレポーター(ルシフェラーゼ)コンストラクトを使用し、温熱処理によるTNF-α,IL-1β誘導性MCP-1,VEGF120分泌増大の抑制機序を解析する。
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