研究課題
血糖値制御システムの破綻による糖尿病の発症が、脳卒中や心臓病などの病態を誘発する主要因の一つであり、血糖値調節機構を解明することが非常に重要だと考えられる。これまで、我々は解糖系酵素GAPDHを介した新規インスリンシグナルネットワークを発見し、2型糖尿病モデルラットを用いてGAPDHのニトロ化修飾の観点からインスリンシグナル伝達の詳細を検討してきた結果、GAPDHのトリプトファン残基のニトロ化修飾が心筋組織におけるインスリンシグナル伝達に深く関与していることを見出してきた。本年度の研究ではラット心筋細胞由来の細胞株(H9c2)に対してインスリン刺激を行った後、ニトロ化修飾を受けるGAPDHのトリプトファン部位を質量分析法によって決定し、決定したトリプトファン残基をフェニルアラニンに置換したGAPDH変異体発現解析系を構築した。これまでタンパク質中のトリプトファン残基に生じるニトロ化修飾は疾患に伴う酸化ストレス亢進下で産生されると考えられ、タンパク質機能を傷害することで病態形成に関与している可能性が示唆されていたが、我々の研究結果からトリプトファンのニトロ化修飾が心筋組織におけるインスリンシグナル伝達に関与しており、本年度の研究によって構築したGAPDH変異体発現解析系を用いることにより、インスリンシグナルにおけるGAPDHのニトロ化・脱ニトロ化に関与する分子を探索することが可能となる。本研究によるGAPDHの多彩な翻訳後修飾の詳しい機構の検討で高次のシグナル伝達の仕組みが明らかになることが期待され、またGAPDHのさらなる機能解明は糖尿病やそれに伴う心疾患に対する治療開発に結びつくと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
新知見も得られているので、おおむね順調に進展していると思われる。
H9c2細胞株および平成28年度に樹立したGAPDH変異体細胞株にインスリンで刺激を行い、野生型GAPDHあるいは変異型GAPDHと結合する分子を比較検討し、野生型GAPDHにのみ会合する分子をプロテオーム解析により同定する。ニトロトリプトファンを含む領域に特異的に会合する分子が同定されれば、トリプトファン残基のニトロ化修飾のインスリンシグナルにおける意義を解明できるだけでなく、タンパク質におけるニトロ化・脱ニトロ化の機構を明らかにするための足がかりとなる。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 485 ページ: 707-712
10.1016/j.bbrc.2017.02.109
Journal of Aomori Society of Sports Medicine
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