本研究は3つの主な研究により行なわれた。 研究1は,本研究は歩行,単脚立位,降段動作時の前額面の動的股関節スティフネスが各動作時の骨盤と体幹の安定性に貢献する新たな指標となるかどうかを検証することを目的とした。両脚支持から単脚支持へ移行する際の前額面の動的股関節スティフネスは,骨盤の前額面と水平面の安定性に関与する股関節の制御的側面を表す重要な指標であることが示された。また単脚立位動作が前額面の動的股関節スティフネスをスクリーニングするテストとして有用であることが示された。 研究2は,主成分分析を用いて健常者の歩行中の下肢関節運動の特徴を調査し,関節運動の特徴の関係性を抽出することを目的とした。退行変性を基盤とした変形性関節症などの発症や進行を予防することを目的とした今後の歩行研究では,これらの健常者の関節運動の関係性を考慮し,特定の関節運動や運動パターンに焦点を当てることが重要である。また,男性と女性において股関節回旋と膝関節内反運動の関係性に違いがみられ,女性では立脚期中の股関節外旋が大きいと立脚期中の膝関節内反から外反への運動が大きく,より定型化された歩行パターンを呈していることが示唆された。 研究3は,高齢者と若年者における切り替わり時間と股関節回旋角度変位量それぞれについて,歩行時膝関節内反・外反運動角度との関係を検討した。本研究の高齢男性の右下肢と高齢女性の両下肢について,股関節内旋運動から外旋運動への切り替えが遅いことは,単脚起立の時間において,膝関節内反角度の増加につながった。このことは,先行研究においても報告されておらず,新たな知見である。立脚初期に股関節内旋が大きい若年女性は,膝関節内反角度が大きく,そのことは膝関節内側コンパートメントに生じるメカニカルストレスが大きくなる可能性が示唆された。
|