研究実績の概要 |
脳機能の発達に重要な役割を持つ必須微量元素の亜鉛と銅に注目し、歯に含まれる亜鉛と銅の分布を分析して、児の出生時の状況や出生後の栄養摂取方法や健康背景との関連を検索することにより栄養摂取における亜鉛および銅の多寡が子どもの健康や発達に及ぼす影響を明らかにすることを目的として本研究を実施してきた。本年度は、満期出生の定型発達児を含む出生時に特段のエピソードを有さない児から得られた乳歯の微量元素分析を進めた。検出された微量元素はCl, Cu, Mn, Ni, Sr, Znであり、ZnとMnはいずれの歯でもエナメル質より象牙質で高濃度であった。Znは、前年度までの実験でみられたように共通してエナメル質の表層で高濃度の部分が観察された。出生前後の濃度比較においてZnでは出生後エナメル質が高い値を示したが、計測部位のエナメル質の厚さが薄い場合、形成後に外部から取り込まれたと考えられるものを含めて計測している可能性も考えられた。Cu濃度は出生前後で比較的安定していた。出生前形成のエナメル質でZn/Cu比を求めたところ、新生児仮死や低出生体重などがみられた児では1を大きく下回り、出生前の相対的Zn濃度の不足が示唆された。 抜歯された完全埋伏あるいは半埋伏の智歯を用いての微量元素分析も実施した。Znのエナメル質表層での集積は、永久歯でも乳歯同様に観察され、完全埋伏歯においても表層に限局する高濃度層を認めた。萌出前にすでに外部からのZnの取込みが行われていることが明らかとなった。 Znの特徴的な分布が明らかとなり歯の微量元素分布が児の健康状態を反映することが示唆されたが、個々の健康背景が著しく異なるため発達障害やてんかんなど後に現れている症状との関連を検索するには至らなかった。
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