研究課題/領域番号 |
15K01761
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山際 勇一郎 首都大学東京, 都市教養学部, 准教授 (00230342)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 養育不安 / 父親 / 尺度 |
研究実績の概要 |
目的 本年度は父親の養育不安尺度の原案作成のための基礎情報収集が主目的である。母親の育児不安の研究は蓄積があるにもかかわらず,父親に関するものは経験論的なものが多く学術的研究は少ない。まして養育不安尺度は父親専用のものが開発されていない。たとえば,山際・渡辺(2011)他は母親の育児不安尺度を援用しており,父親の養育不安についてカバーできていない部分があると考えられた。したがって始めに既存の尺度にとらわれず子どもを持つ父親がどのような不安や悩みをもっているかを調査する。 方法 母親研究では子どもの定期健康検診や保護者会などでのデータ収集が有効な方法であるが,父親の場合は不適切である。山際・渡辺(2011)などから,父親を対象とする場合,web調査によるデータ収集がサンプリングとして妥当であることが明らかとされており,本研究においてもweb調査を行った。対象者は,0~12歳の子どもをもつ父親1160名であった。子どもの年齢層が偏らないようにサンプリングを行った。その他に居住地域,職業,家族構成などは条件を加えず幅広くサンプリングを行った。平均年齢は42.3歳であった。人口統計学的変数以外に,子どもとの接触時間,子どもとの関わり方,配偶者がいる場合は配偶者の就業状況や収入などの項目と子育て方針(自由記述)などを用意した。 主な結果 住田・藤井(1998)などから母親の場合は大分類として,養育に対する不安,子どもの成長・発達に関する不安,自分の養育能力に対する不安,養育によって生じる欲求不満が存在することが知られているが,本研究において父親にも概ね同様なものがあげられていた。しかし,子どもの成長・発達に関わる内容や問題が特に多かった。また,教育費や母親の養育方針などについても不安があげられており,現在だけでなく将来についての言及も多かった。これらを元に内容を網羅する尺度を作成する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,父親の養育不安を総合的な検討に必要な尺度作成のための第一段階である基礎材料の収集を行った。実際に子どもをもつ父親に子育てに関する悩みや不安を自由記述を中心とした調査を行った。 尺度作成のために必要な父親の悩みや不安は自由記述によって収集した。加えて,尺度の妥当性の検討や将来的に他の変数との関連を検討していく上で必要な情報として,父親の年収,きょうだいの数などの属性変数,帰宅時間,子どもと接する時間などの行動変数,子どもの成長や家庭についての満足感などの心理的変数をいくつか設定した。なお,これらの変数の作成には山際・渡辺(2010)他を参考に,一部修正したものを用いた。 また,自由記述を用いて,子育て方針や子どもの虐待に対する意見などをたずねた。養育不安の内容を検討する上で,質的な変数であるが有用であると考えられるからである。これらの変数は,当初の研究計画に含めていなかった変数であるが,学会等の意見交換によって含めることとした。これらの変数の検討は尺度作成のための資料の一部にすることも可能であるとともに養育不安に影響を与える諸要因としての検討も可能であると考えられる。 調査は調査会社にweb調査を委託した。父親の場合,web調査がサンプリングに優れていると知られているからである。当初の計画ではデータ数は500~600の予定であったが,さらに2回目を追加実施し合計1160名となった。 分析に関しては,属性変数などについての集計と自由記述項目の大まかな内容チェックが終了している。今後は,自由記述で示された内容から養育不安尺度の項目を精選していく。
|
今後の研究の推進方策 |
自由記述から作成した評定項目尺度の父親の養育不安尺度が妥当な尺度であるかを検討する第2回目の調査をおこなう。 続いて,家族構成,子どもの年齢,配偶者の就業状態などによって異なるかを検討する。さらに次の段階では,父親の生活満足感などの心理的変数や家族観,育児観,仕事観などの態度変数との関連について検討し,父親の養育不安に与える要因について総合的に考察を行う。 今後も基本的な方法はweb調査を用いる。父親を対象とした研究においては妥当性に優れていると考えられるためである。また,研究者は個人情報に関して入手しないので研究倫理上の問題点もクリアしやすいという利点もある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではデータ収集等のために業者委託によるweb調査を用いている。予算額全体のなかでweb調査費(研究経費の「その他」)が予定額より少なかった。理由は2点である。 (1)web調査費用は,項目数とデータ数によって決定される。本研究で検討を予定している種々の変数を際限なく含めると非常に項目数が多くなり予算額も大きくなるので,本年度は回答が希薄になりがちな自由記述が中心になるためデータ数を優先し,その他の変数を少なく設定した。。 (2)本研究は研究段階が3ステップであるが,これらはすべてweb調査を用いる。研究経費のうちweb調査費の予定額は研究期間の3年間で分配額が均等ではない。年度が進むにつれ予算額は少なくなり,特に,最終年度は初年度の6分の1とされており,調査を行うことが不可能な予算額となる。そのため,繰り越しを行い最終年度においても十分な調査費用を確保する狙いもあった。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分はweb調査費に用いる。 年度によって配分額が均等ではなく,徐々に減額されていくので,項目数およびデータ数と調査費用のバランスを,残り2年のスパンの中で考慮しながら予算執行を行う予定である。
|