研究課題/領域番号 |
15K01770
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
石川 由美子 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (80282367)
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研究分担者 |
小林 久男 高崎健康福祉大学, 人間発達学部, 教授 (50004122)
齋藤 有 聖徳大学, 児童学部, 講師 (60732352)
佐藤 鮎美 京都大学, 文学研究科, 教務補佐員 (90638181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 読み手 / 聴き手 / ミラーニューロン / fNIRS / 前頭前野 / オノマトペ / ジェスチャー / 絵本 |
研究実績の概要 |
本研究は,絵本の読み手が自然に行なう読み合いの間のジェスチャーに着目している。自身に向けられた読み手のジェスチャーを聴き手の子どもがシグナルと捉えて読み手に反応を返すようになるやりとりが成立する神経基盤には,聴き手のミラー・ニューロン・システム(MNS)が関与するであろうと仮定した。また,実験課題には,感性言語であるオノマトペを用いた絵本を用意した。情動には発達的な変化が認められるのかなどについて脳血流の変化の視点で捉えようと試みてきた。 27年度は,動物や虫が「ぴょーん」と飛びあがるしぐさを繰り返す絵本と、「うぎゃー」と驚きのしぐさを繰り返す絵本の2冊の絵本を用いた読み聞かせを行い、成人25名を対象にしたジェスチャー有り無し条件での基礎データを収集した。 成人データでは動作を表現している「ぴょーん」と「うぎゃ」では,前頭前野の活性と抑制の様相が異なることが明らかとなったが,数名の乳幼児のデータではそのような変化は認められなかった。 28年度は,成人で得られたデータを基礎として,同様の課題について27年度に引き続き主に定型発達の子どもを中心としたNIRS計測を行ってきた。その際,併せてKーABC「手の動作」,KIDSの発達調査,S-M社会生活能力検査なども実施した。定型発達の子ども68名および障害のある子ども7名の計測データを得た。 現在,計測データの解析,および,KーABC「手の動作」,KIDSの発達調査,S-M社会生活能力検査などの結果整理および,前頭計測部位との連関を検討する作業を進めている状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要にも記したが,絵本の読みあい活動におけるジェスチャーが聞き手に及ぼす影響について、前頭前野の活動の様相から検討してきた。初年度には、動物や虫が「ぴょーん」と飛びあがるしぐさを繰り返す絵本と、「うぎゃー」と驚きのしぐさを繰り返す絵本の2冊の絵本を用いた読み聞かせを行い、これらの絵本の読み聞かせ聞いているときの健常成人25名の脳活動を計測した。その結果、健常成人では、「ぴょーん」のしぐさを付与した条件で聞いているときには、右前頭前野外側領域において有意に脳血流が増大していたが、しぐさを加えずに読んだときには有意な脳活動は認められなかった。一方、「うぎゃー」と驚きのしぐさを付与した条件で聞いているときのみ、前頭極付近で脳血流の有意な減少が認められ、類似した絵本でも情動の有無によって脳活動の様相が異なることが明らかになった。 2年目には、学齢前後のこどもたちにおける絵本の読みあいの影響を調べるため、同じ条件の読みあいを定型発達の子ども68名と障害のある子ども7名を対象に実施した。さらに、社会性や動作の記憶の影響も調べるため、研究に参加した学齢期の児童にはK-ABCの「動作の記憶」を実施するとともに、各児の担任教員にSM社会能力検査への記入を求めた。その結果、うぎゃーの読みあい中のこどもの脳活動には、年齢や「動作の記憶」との間に相関がみられなかったものの、SM社会能力検査との相関が認められた。これらのことから、情動を含む絵本を聞いているときには、社会性の発達水準と関連しており、社会性が高いほど前頭葉が活発に活動することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は,これまでのデータの解析とそれに基づいた研究成果をまとめ,成果発表を行なう。 これまでの検討から、前頭前野の活動は情動の影響や社会性の発達水準と関連することが明らかになった。とりわけ、しぐさをつけずに読んだ条件よりも、しぐさをつけて読んだ条件の方が脳活動の変化が大きく、社会性との関連も深いことから、絵本の読みあい場面において、しぐさが聞き手の情動認知に投げかける訴求性は強いものと考えられる。自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)では、しばしば情動認知の障害があることが報告されているが、絵本の読みあい活動の場面では読み手がしぐさを加えて読むと、それを受けて情動を表出して絵本を楽しむことがある。したがって、ASDの子どもにおいても、しぐさが場面理解や読み手の情動の理解をサポートする可能性もある。そのため、今後はASDの子どもを中心とした発達障害児の特性と脳活動の関連を調べ、ASDの子どもに絵本を用いた支援が有効に働くのかなどを検証することを,研究課題として視野に入れたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は乳幼児から学童まで幅広く子どもを対象とした計測データを得た。その際,保育園,小学校等の協力が得られ,計測にかかる日数の短縮が得られたため,予定していたよりも交通費と人件費が抑えられたことが大きい。29年度は,今後の研究展開の予備実験も兼ねて,知的障害,ADSのあるお子さんの継続計測をしていきたいため,次年度使用額については,そのための謝金と交通費および実験費に充てたいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,研究最後の期間であるので,研究費用は主に,継続計測者の謝金,計測に関わる人件費,交通費,現在の解析に必要な備品の費用,および研究成果の発表にかかる費用,また研究報告書作成の費用として利用する計画である。
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