研究課題/領域番号 |
15K01794
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
藤原 憲秀 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (20222268)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 全合成研究 / クライゼン転位 / 鎖状エーテル / 有糸分裂阻害剤 / 1,4-ジアルコキシ-2-ブテン / ニトロアルドール反応 |
研究実績の概要 |
緑藻由来の糖脂質のニグリカノシド類は、強力な有糸分裂阻害活性と新規で特異なエーテルクロスリンク型化学構造を持つため、薬剤耐性を克服しうる新たな抗癌剤のリードとして強く期待される。一方、緑藻による産生量が低く物質供給に難があり、当初は立体化学も未解明のため、詳細な生物活性の研究が停滞していた。申請者は、「立体化学と生物活性基本構の解明」を目的として、ニグリカノシド類の様々な部分構造を立体化学が明確な形で合成し、天然物とのスペクトル比較と生物活性評価を行うことを計画した。さらに、ニグリカノシド類の「全合成による物質供給の実現」に向けた研究展開を計画した。なお、エーテルクロスリンク部の立体選択的構築法とエーテル結合部間の炭素-炭素二重結合形成法の開発が本研究達成上の鍵となるため、これを最優先的解決課題として検討することとした。 一方、ニグリカノシドAジメチルエステルの絶対配置の効率決定を計画していた平成27年度の研究の途上、Readyらにより同化合物の全合成が達成され、同時に絶対立体配置も解明された(ReadyらChem. Sci. 2015, 6, 2932)。しかし、その合成法は多段階を要し合成供給にはまだ効率化が必要な状況であると判断された。申請者は、独自に別経路での同化合物の全合成方法を考案していたため、Readyによって提出された絶対立体構造を標的とした効率全合成の達成に計画を変更した。これまでに同化合物の2つのエーテルクロスリンク部についてClaisen転位を利用した立体選択的合成法を確立している。平成28年度はエーテル結合部間の炭素-炭素結合形成を検討し、ニトロアルドール反応がエーテル結合部を侵さずに結合形成し得ることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの研究により、2つのエーテルクロスリンク部の立体選択的構築について、同一様式のIreland-Claisen転位反応を用いて統一的に達成した。なお、類似のIreland-Claisen転位反応が別の天然物の合成にも応用できることを最近見出している。さらに、これまでに、エーテルクロスリンク部に近接する酸素官能基の立体選択的導入にも成功し、同化合物のほぼ全ての不斉点を望む立体化学で導入する目処がついた。 そこで、平成28年度は、全合成上の鍵となる、下部脂肪酸鎖のエーテル結合部間の炭素-炭素二重結合形成法を検討した。具体的には、1,4-ジアルコキシ-2-ブテン構造を左右に分け、中央のアルケン部で連結する方法を検討した。1,4-ジアルコキシ-2-ブテン構造の構築例は、アルケンメタセシス以外ではあまり例が無いが、実際の合成では他にアルケン部が多くアルケンメタセシスは適用できないため、beta位にアルコキシ基を持つalpha-シアノホスホン酸エステル、alpha-シアノスルホン、ゼミナルジスルホン、ニトロ置換体などを用いた、付加-脱離型反応を検討した。その結果、ニトロアルドール反応がbeta位のアルコキシ基を侵さずに結合形成し得ることを見出した。またその際に塩基の選択が重要であることも判明した。現在、付加生成物のニトロ基と水酸基の除去により、trans-アルケンを形成するため、新たな方法の確立を検討している。全合成まで、残る鍵段階は1つとなり、おおむね順調に研究が推移している。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成29年度は、ニグリカノシドAジメチルエステルの下部脂肪酸鎖の1,4-ジアルコキシ-2-ブテン構造の構築法を完成させ、その全合成を達成する。平成28年度に見出したニトロアルドール反応条件により、アルコキシ基を脱離させずに左右セグメントを連結させた後、ニトロ基と水酸基の除去によるアルケン形成法を確立し、その方法で目的の構造構築を達成する。具体的には、水酸基をキサンテートなどのラジカル官能性置換基に変換し、ラジカル反応でニトロ基と共に脱離させる方法を検討する。その後、保護基の除去や細部の変換反応を経て、ニグリカノシドAジメチルエステルの全合成に適用する。全合成達成後に合成品の生物活性を調査する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に生じた次年度使用額は、経費の節減の結果生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に生じた次年度使用額は、次年度の消耗品費と合わせて試薬(消耗品)の購入に使用する。
|