本年はピペリダマイシンFおよびヒトラマイシン類の全合成を目標にその合成研究を展開した.ピペリダマイシンF については前年度までに大員環構造を構築できており,その脱保護について検討した.分子内に存在する計6つの保護基を同時に除去する条件を用いた場合には容易に基質が分解することが明らかとなり,段階的な脱保護が必要であることが分かった.そこでモデルの環状体を用いて脱保護の検討を行った結果,2種類の脱保護条件を段階的に適用することで全ての保護基を基質を損なうことなく除去できることを見出した.実際に天然物合成へ適用した結果,1段階目の保護基の除去に成功し,今後2段階目の反応条件を用いることでピペリダマイシンFへ導くことを計画している.また,ピペリダマイシンFと同様に抗菌活性を示すヒトラマイシン類の全合成についても検討した.ピペリダマイシン類とは異なり全てアミド結合で構成された天然物であるが,各アミノ酸残基の立体化学の構成がピペリダマイシン類とは異なることから,生物活性と立体配座の関係を全合成により明らかにすることができると考えた.ピペリダマイシン類と同様の合成戦略によりペプチド鎖の伸長を試みたが,伸長途中で副反応が起こることで望む環化前駆体を調製できないことが分かった.実際には,C末端から伸長することで目的の環化前駆体へ調製できることが分かり,今後環化と脱保護により望むヒトラマイシン類へ導く予定である.
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