前年度までにモデルの環状ペプチドについて,接触水素化による脱保護が問題なく進行することを見いだしていた.本年はピペリダマイシンFおよびヒトラマイシン類の全合成とその誘導体の創出を目標に,合成研究を展開した.ピペリダマイシンFについては,合成条件の再検討を行った際にSc(OTf)3を用いたアシル化反応において顕著なエピ化が進行することが明らかになった.この原因を調べるために様々な基質を調製してアシル化反応を試みたが,いずれの場合でもエピ化を抑えられないことが分かった.唯一TBS基を用いた場合にエピ化を起こすことなく,望むアシル化反応が進行することを見いだした.しかしながら,TBS基は合成中に脱離することが分かり,アシル化において若干エピ化が進行するものの,安定に存在するエーテル系保護基で合成を進めることにした.Sc(OTf)3を触媒として用いたアシル化により,4連続ピペラジン酸構造を構築することができ,順次両末端にアミノ酸を伸長することで環化前駆体へと導いた.両末端を脱保護後,マクロラクトン化を行った結果,立体障害の大きい環化位置にも関わらず問題なくマクロラクトン化が進行し,対応する環化体を良好な収率で得た.最後にモデル体で確立した脱保護条件に付すことで,ピペリダマイシンFの提唱構造を得ることに成功した.現在,精製と構造決定を検討している.また,ピペリダマイシンFと同様に抗菌活性を示すヒトラマイシン類については,C末端から伸長することで目的の環化前駆体へ調製できることが前年度までに分かっており,今年度は環化と脱保護を検討した.環化反応は問題なく進行したが,ピペリダマイシンFで用いた脱保護条件では基質が分解することが分かり,ヒトラマイシン類の合成を達成するには保護基または反応条件の再検討が必要であることが明らかにあった.
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