研究課題/領域番号 |
15K01801
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
花島 慎弥 大阪大学, 理学研究科, 講師 (50373353)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖脂質 / コレステロール / リポソーム / 合成 / NMR |
研究実績の概要 |
糖脂質が生理機能を発揮する過程で、脂質ラフトの細胞膜内に分布するコレステロールのような脂質と糖脂質との特異的な相互作用が、細胞表面にある糖脂質糖鎖の構造変化を誘起する事が計算機シミュレーションにより示唆されている。しかしながら、その実験的な根拠はきわめて乏しい。そこで、生体膜を模倣した環境下において固体NMRを用いることで、糖脂質の脂質ラフトにおける脂質間相互作用と続く構造変化をあらわに明らかにし、ラフト糖脂質分子集合体の全体構造の解明を目指し研究を進めている。 本年度は、脂質膜内でおこる糖脂質とコレステロールの精密な相互作用解析の手法に関して、重水素固体NMRを用いることで確立した。固体NMRを測定するにあたり、安定同位体標識をした糖脂質をプローブとして用いる。重水素や13Cで標識された脂質プローブは、NMR条件下で本来の脂質分子と同様のふるまいが期待できるため、本研究目的を達成するためには理想的な脂質分子プローブといえる。 様々なスフィンゴ糖脂質構造のうち、それらのコア構造を有し、白血球細胞上での生理機能を有するラクトシルセラミドに着目し、脂質部位に位置選択的に重水素標識を施したラクトシルセラミドプローブ分子を合成した。合成したプローブ分子は、重水素固体NMRにおいてラクトシルセラミドとコレステロールの脂質膜内での相互作用を鋭敏に反映する優れたプローブであることをはじめて確認した。このプローブを用いて、不飽和リン脂質存在下でのマクロ相分離を観測を試みた結果、ラクトシルセラミドはNMRや光学顕微鏡で観察できるようなマクロな秩序液体領域を形成しないことを明らかにした。さらに重水素固体NMRスペクトルを精査したところ、ラクトシルセラミドはコレステロールとともに微小なドメインを形成する性質がある可能性を示唆していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本年度は、脂質膜内でおこる糖脂質とコレステロールの精密な相互作用解析の手法に関して、重水素固体NMRを用いることで確立した。示差走査熱量測定と重水素固体NMRを用いて、リポソーム中のコレステロールとラクトシルセラミドの相互作用を詳細に調べた。示差走査熱量測定において、ラクトシルセラミド単一成分で作成したリポソームは、78度付近に幅広な主転移を示したが、コレステロールを加えていくと主転移のピークが幅広くなり、50mol%加えた時点でほぼ消失した。これはラクトシルセラミドとコレステロールはよく混和することを示す。さらに、前年度に合成を達成した、脂肪酸10位に重水素標識を施したラクトシルセラミドを用い、コレステロール存在下で固体NMRを測定した。その結果、50 kHzをこす大きな四極子分裂幅を観測した。これらのことは、ラクトシルセラミドはコレステロールとよく相互作用して、ラフト様ドメインを形成する能力があることを強く示唆する結果と考えられる。そこで、不飽和リン脂質としてPOPCを加えたPOPC/ラクトシルセラミド/コレステロールで構成される三成分系のリポソームを作成して、ラクトシルセラミドのマクロなドメインの形成能を評価した。まず、コレステロールが存在しない場合は、POPCとラクトシルセラミドは混和性に乏しく、ラクトシルセラミドが凝集したゲル様ドメインを形成することが明らかになった。そこで、さらにコレステロールを添加した条件において、マクロな相分離がおこるかどうかを重水素固体NMRと共焦点顕微鏡を用いて調べた。重水素固体NMRにおいては、コレステロールの比率を増加させると、四極子分裂幅が35から42 kHz程度におさまり、ラクトシルセラミドとコレステロールのマクロなドメイン形成能は低いと考えられる。共焦点顕微鏡によるドメイン観察でもこれを支持する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
糖脂質は、細胞膜に存在する機能ドメインである脂質ラフト分子複合体のメンバーの一員として、タンパク質による分子認識や生理作用などを調節し、シグナル伝達を制御する重要な分子の一つとして考えられている。これまでは、脂質膜内における糖脂質とコレステロールの相互作用に着目して、研究を遂行してきた。最後の1年間は、細胞表面に存在する糖脂質の糖鎖へと視点を徐々に移して、脂質膜中に存在する糖脂質の頭部基の配向を固体NMRを活用することで精密に解析する手法の確立を目指す。そのためには、まずは糖脂質構造中の頭部の糖部位へ重水素やフッ素核を導入することで、脂質膜表面に対しての原子間ベクトルを計測できるような新たな糖脂質プローブを創生する。この糖脂質プローブを脂質膜内に挿入して、固体NMRを測定することで糖の配向情報を分子局所運動性との積として得る。このような情報を糖の構造中で数か所得ることで、配向情報を局所運動性と分離して得ることができると考えている。さらに、糖と脂質部位のセラミド炭素との双極子カップリングの値を得ることで、糖とセラミド間の二面角に関する構造情報の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
1位重水素化グルコースを用いて糖脂質の合成を行う予定であったが、フッ素標識体の合成が難しく、合成に時間がかかり、重水素標識体の合成に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
1位重水素化グルコースを購入する。
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