本年度は、コレステロールの誘起する頭部基の傾きの変化を観測するため、他の糖化セラミドとも共通骨格を有するグルコシルセラミドを用いて、脂質膜中での頭部配向の変化を固体NMRを用いて解析することを目指した。グルコース1位に重水素、2位に炭素13標識を施したグルコシルセラミド二重標識体を合成し、DMPCとコレステロールから成るリポソームに組み込んだ。このリポソームの重水素固体NMRとREDOR測定を行い、四極子分裂幅ならびに異種核双極子カップリングを解析したところ、コレステロールのオーダー効果に起因するシグナル変化を観測した。その一方で、グルコース頭部基の角度変化に依存するようなシグナル変化は観測されなかった。 ガングリオシドGM1は酸性のシアル酸を含む五糖を極性頭部基にもち、セラミド鎖を脂質鎖とした構造を有する。GM1は種々の生理機能を有する糖脂質の一種であり、脂質ラフトに局在して、コレラトキシンやアミロイドβなどの疾患関連タンパク質と結合することが知られている。しかしながら、GM1の脂質間相互作用を介した脂質ラフトへの分配の分子メカニズムは不明な点が多い。そこで本研究では、重水素固体NMRを用いてガングリオシドGM1の脂質ラフトへの分配を評価した。脂肪酸の10位に重水素標識を導入したGM1とスフィンゴミエリンをそれぞれ合成し、種々の割合でスフィンゴミエリンとGM1を加えた生体モデル膜を調製して固体NMRを測定した。その結果、GM1がスフィンゴミエリンとの相互作用でLoドメインに局在することを観測した。その一方で、GM1が過剰に存在すると、頭部同士の静電反発によりスフィンゴミエリンドメインが分散して、スフィンゴミエリン、コレステロールと微小ドメインを形成することが示唆される結果を得た。
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