研究実績の概要 |
申請者は夾雑系において異常型プリオン蛋白質特異的に異常型プリオン蛋白質どうしのクロスリンクを引き起こすある色素化合物Aを見出してきた。本年度はこの反応について条件検討を行い、特徴の抽出を行った。 添加化合物については硫黄を含む芳香環を持つ化合物がクロスリンクを引き起こしやすいという共通点がみられたが、これらの化合物群では当初見出した化合物以上の効力を発揮する化合物を見出すことはできなかった。次に様々な色素化合物について同様の試験を行った結果、非常にクロスリンク活性が高い二つの化合物B,Cを見出した。これらは硫黄を含む芳香環を含まないことから別の経路によるクロスリンクの促進が示唆された。これらの知見を基に紫外線照射を試みたところ上記特異的クロスリンク反応がみられ、上記の化合物A,B,Cを共存させるとさらに効率のよい反応が得られることがわかった。研究計画に沿い、化合物A,Bを吸着させた樹脂に対して、異常型プリオン蛋白質が結合するか否かを、細胞溶解液を用いて検討したが、化合物AやBと異常型プリオン蛋白質の直接の結合はこの溶媒条件下においては見られず、化合物A-Cは紫外線照射によるクロスリンク反応の増感剤であることが示唆され、クロスリンクに組み込まれるような反応ではないと考えられた。 以上の結果に加え、クロスリンクされた異常型プリオン蛋白質の性状についてはこれまでに得られていた知見に加え、尿素のような変性剤や還元剤に対して抵抗性であった。化合物Aおよび紫外線照射によって誘起される異常型プリオン蛋白質の多量体化は分子間の強固な水素結合によるものではないことを示している。一方で、もともと夾雑系であった反応系に芳香族アミノ酸等を添加してもクロスリンク反応の抑制は見られなかった。これらの実験的事実は異常型プリオン蛋白質の凝集体としての構造的特徴を反映していると考えられる。
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