研究課題/領域番号 |
15K01805
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研究機関 | 千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
河野 敬一 千歳科学技術大学, 理工学部, 特別研究員 (10136492)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オステオカルシン / 多臓器相関 / ハイドロキシアパタイト / 吸着 / 糖代謝 / 立体構造解析 / 安定同位体標識 / NMR |
研究実績の概要 |
オステオカルシン(OC)は骨芽細胞で作られ、骨形成に関与する蛋白質として認識されてきた。最近、OCが膵臓のβ細胞に対してホルモンとして働き、糖代謝をも制御することが提案され、再び脚光を浴びている。 OCはγカルボキシグルタミン酸(Gla)と呼ばれるカルシウムイオンにキレート配位するアミノ酸残基をもっている。骨中ではOCはGla型で存在するが、破骨細胞による骨吸収の際には、ハイドロキシアパタイト(HA)を溶解するために酸が分泌され、酸性環境でOC中のGla残基は脱炭酸してグルタミン酸(Glu)になる。このGlu型のOCが血中に吸収され、他臓器に作用してホルモン活性を示す。 血中には、全長のGlu型OCの他に、破骨細胞の酵素によってArg19-Arg20の間が切断されたフラグメントが存在する。Ca配位Gla型OCの立体構造はX線結晶解析やNMRによって解かれている。それによればArg19-Arg20周辺はヘリックス構造をとっており、酸性のGla型OCが同様の構造をとっているとすれば、切断が困難となる。その結果切断フラグメントではなく、活性型ホルモンである全長のGlu型OCの血中濃度が上昇することから、酸性Gla型OCの立体構造を明らかにすることは重要である。我々は、非標識のウシOCの天然評品について、酸性条件化で構造形成することを1次元NMRで示した。更に詳細な解析を行うことが本研究の目的の一つである。 一方、ホルモン活性を示すGlu型OCの立体構造も最近X線結晶解析によって解かれたが、これまでの立体構造を持たないという予想に反してGla型OCに類似した構造をとっていることが示された。溶液中でもGlu型OCがGla型OCに類似した構造をとるかはホルモン活性発現機構と関連して重要である。安定同位体標識したGlu型OCについて多核多次元NMRによる構造解析を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
骨中に存在するGla型OCは、Caイオンと結合しており、αへリックスを含むコンパクトな構造をとることがX線結晶解析とNMRによって明らかになっている。またEDTAでCaイオンを除くとランダム構造になることがCD等によって示されている。一方、我々のNMRによる酸性状態のGla型OC(Caイオンは外れている)の予備的な研究によって、酸性状態ではCaイオン結合状態と同じ程度に構造形成していることがわかっていた。 平成27年度は、酸性Gla型OC構造解析の第一段階としてCDスペクトルのpH変化および熱変性過程の解析を進め、熱力学パラメーターの算定を行った。ペルチェ式温度可変セルホルダーを用いることで精密な変性曲線を効率よく取得するシステムを構築した。 骨由来ホルモンとして重要なGlu型OCであるが、CDスペクトルから溶液中では構造をもたないと考えられてきた。最近のX線結晶解析では、Ca配位Gla型OC類似の構造をとっていることが示された。X線結晶解析の著者はCDが溶液の濁りや塩濃度の影響を受けて正しくない結果を与えることがあるとしているが、X線結晶解析では結晶場の束縛によって構造が変化する可能性があり、NMRによる溶液中の構造解析やペプチド鎖の運動性解析が必要である。しかしながら、運動性の大きいGla型OCの1H-NMRスペクトルは解析が困難であったことから、Glu型OCではさらに難しいと予想される。この問題を乗り越えるには15Nと13Cで標識して多核多次元NMRを測定することが最も望ましい方法と考えられる。平成28年度は、安定同位体標識のためにGlu型OCを大腸菌で大量発現する条件を探索してきた。困難を極めたが、年度末にやっと良い条件を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
Glu型OCの大量発現系を確立することができたので、今後は15N標識および15N , 13C標識したGlu型OCを調製し、各種多核多次元NMR測定を行って信号の帰属を確立し、さらにNOEデータから距離情報を収集して構造計算を行う。緩和解析により、ペプチド鎖の運動性を解析する。これらの結果から、受容体とされるGPRC6aとの相互作用解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
Glu型OCの大腸菌による大量発現条件の探索を行ってきたが、28年度末にやっと解決の目処が付いた。このため、後に続く実験の開始が29年度になってしまい、当初予定していた予算額を支出することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
Glu型OCの大腸菌による大量発現条件が確立し、研究の最大の難関を越えることができたので、今後は順調に安定同位体による標識、NMRによる立体構造解析、各種分光法による相互作用解析を進めていく。
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