天然リガンドの代わりとしてタンパク質に認識されるペプチドリガンドを設計する手法を確立することを目指し、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンを標的としたペプチドを設計した。糖鎖受容体の代わりに認識されて感染阻害を行う活性の機構解析を行うため、これまでに最も高い感染阻害活性を示した糖修飾ペプチドのヘマグルチニンおよび感染細胞との相互作用解析を行った。 糖修飾ペプチドとヘマグルチニンと相互作用を測定したところ、糖修飾ペプチドはシアリルラクトサミン共存下で阻害され、設計通りヘマグルチニンの糖鎖結合受容体に結合することがわかった。しかしながら糖を修飾しないペプチドとその解離定数が変化しないこと、また糖修飾ペプチド共存下で細胞のエンドサイトーシスを抑制させると感染が抑制されないことがわかり、ヘマグルチニンとの相互作用が感染阻害活性に直接関わっていないことが示唆された。 次に糖修飾ペプチド共存下でウイルス感染後に細胞内に取り込まれたウイルスゲノムを測定したところ、ウイルス感染の吸着過程ではなく、次段階の膜融合が関わることが示唆された。赤血球を用いた溶血試験を行ったところ、糖修飾ペプチド濃度依存的に溶血が阻害された。さらなる詳細な解析を行うため、等温滴定型熱量測定(ITC)およびX線結晶構造解析を見据え、組換えHA発現を大腸菌およびバキュロウイルスによる発現を行うための準備を行った。 これらの結果は、糖修飾ペプチドがヘマグルチニンを介した細胞内での膜融合を阻害している可能性を示した。糖修飾ペプチドがHAに結合することでHAの安定性が向上し、膜融合の誘発に必須であるHAの構造変化が起きにくくなった可能性がある。ヘマグルチニンの受容体結合部位に相互作用する化合物が膜融合阻害活性を示す例はこれまでに報告がなく、新規な阻害機構を有するペプチドリガンドとして期待出来る。
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