研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞性粘菌において発見された融合型ポリケタイド合成酵素(PKS)であるSteelyがどのようにして複数の産物を与えているのかを明らかにすることにある。 29年度は前年の結果から予想していた生合成経路を再検証する必要性があると判断し、Steely酵素が産物を変える発生後期の前駆物質が何であるかを明らかにした。これまで発生後期に合成される第2の産物であるLCC-1はSteely酵素が切断されてできたIII型PKSが単独でフロログルシノールを合成し、DIF-1代謝産物とカップリングすることによって合成されると考えていた。しかし、少なくともこの経路は主要な経路ではないことが昨年の実験結果から導き出された。そこで、DIF-1の前駆物質である1-(2,4,6-Trihydroxyphenyl)hexan-1-one(THPH)をStlB遺伝子欠損株に与えるFeeding 実験を行ったところ、発生後期にLCCを合成することが分かった。この結果は、発生後期に細胞性粘菌の柄に蓄積されるハロゲン化有機化合物LCCsの主要なものはDIF-1の前駆物質と同じもので合成されることを示している。しかし一方で、LCCsの一部はTHPHでは合成を回復しないことから、別な前駆物質が必要であると推定される。 最後に得られたLCC-1の生体内での機能を検証した。構造が細胞性粘菌の他の種から得られた抗菌物質AB0022Aという化合物と似ていることから、抗菌活性について検証した。その結果LCC-1はグラム陽性菌である枯草菌に対してAB0022Aよりも強い抗菌活性を持つことが分かった。
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