研究課題/領域番号 |
15K01811
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
百瀬 功 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 主席研究員 (10270547)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん微小環境 / 低栄養 / レドックス制御 |
研究実績の概要 |
腫瘍内部は貧弱な腫瘍血管形成により低酸素・低栄養環境にある。腫瘍内部のがん細胞は低酸素・低栄養環境に適応して生存するために様々な適応反応を起こし、その適応反応の一つが代謝経路の改変である。我々はグルコースやアミノ酸などの栄養環境に注目し、低栄養環境における代謝シフトに作用する化合物を探索してきた。これまでにカビの生産する二種類の低分子化合物PCAおよびPPAが、低栄養環境において選択的に細胞毒性を示すことを見いだした。そこで本化合物の作用を調べたところ、PCAおよびPPAが細胞内の抗酸化物質であるグルタチオンを選択的に減少させることを見いだした。本年度はPCAおよびPPAによるグルタチオン低下のメカニズム解析と、PCAおよびPPAの低栄養選択的細胞毒性について検討した。まずPCAおよびPPAによるグルタチオン低下のメカニズムについて調べたところ、本化合物は非酵素的にグルタチオンと結合体を形成することを明らかにした。グルタチオンはトリペプチドであるため結合様式の解析が複雑になる。そこでより単純なモデル化合物としてN-アセチルシステインモノメチル(NACM)を用いてPCAとの結合様式を解析したところ、NACMのチオール基とPCAのエキソメチレン基が共有結合を形成することを明らかにした。さらにPCAおよびPPAは、細胞内グルタチオンと結合体を形成することにより遊離の還元型グルタチオンを低下させ、抗酸化能の低下による活性酸素種の産生を促すことを明らかにした。次に本化合物の低栄養選択的細胞毒性について検討した。その結果、がん細胞を低栄養環境で培養すると還元型グルタチオンが減少することを見いだした。この酸化ストレスに対する防御応答が低下した状態のがん細胞に、PCAやPPAを作用させると遊離還元型グルタチオンの減少がさらに進行し、続いて活性酸素種の産生が増大することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は低栄養選択的細胞毒性物質PCAおよびPPAの標的分子であるグルタチオンの減少メカニズムについて詳細に解析した。PCAおよびPPAとグルタチオンを水溶液中に加えると、非酵素的に結合体を形成することを明らかにした。まずPCA-グルタチオン結合体を単離することを試みたが、4つの異性体の混合物として得られたため解析は困難であった。そこでグルタチオンの単純化モデル化合物としてNACMを用いた。このNACMの使用が順調に研究が進展したポイントであったと考える。NACMはグルタチオンと同じようにPCA-NACM複合体を形成したが、やはりグルタチオンと同様に立体化学の異なる4つの異性を形成した。しかしPCA-NACM複合体の4種類の異性体はHPLCにてそれぞれ単離することが可能であり、いずれもNMRスペクトルデータを得ることができた。さらに低栄養環境でのPCAおよびPPAの作用については、予想される範囲内の結果であったため実験はスムーズに実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
PCAおよびPPAの有効な利用方法の開発について検討する。特にマウスを用いたin vivoでの応用を主として進める。
1.単剤療法での可能性:数十種類のヒトがん細胞に対してPCAおよびPPAの感受性を試験し、本化合物に対して感受性の高いがん細胞を見いだす。次にこの細胞株をマウスに移植し腫瘍を形成することを確認した後に、PCAおよびPPAの抗腫瘍効果を検討する。 2.併用療法での可能性:グルタチオンは抗がん剤耐性や放射線耐性と深く関連している。例えばシスプラチンはグルタチオンの発現と薬剤感受性の間に負の相関があることが知られている。そこでシスプラチンとPCAおよびPPAの併用を検討し、in vivoでのシスプラチンの抗がん活性の増強および副作用の軽減を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の予算を次年度に繰り越したが、ほぼ予定額を使用している。
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