研究実績の概要 |
平成29年度では,主に2点の技術開発を行った. 1.標準品のマススペクトルが無く,「未同定」として検出される低分子化合物に対して,構造推定を行うためのMS-FINDERソフトウェアを開発した.このプログラムではまず,構造未知のイオンのプリカーサーイオンから組成式の推定を行い,そこから考えられうる構造式候補をオンラインデータベースであるHMDB・KNApSAcKなどに検索を行う.その後,「水素再配置則によるマスフラグメンテーションの解釈法」を用いて,MS/MSスペクトルから最も妥当性が高いと考えられる化合物構造式を割り出す.本手法は現在,およそ60%の確率で正解構造を割り出すことに成功しており,上位5つの候補の中に正解構造が含まれる確率はおよそ85%という精度で構造推定が可能なプラットホームの構築に成功している.これら水素再配置則によるマスフラグメンテーションの解釈ならびにMS-FINDERソフトウェアは,Analytical Chemistry 2016, 16, 7946-7958にその成果を掲載した. 2.スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン・セラミド分子種)のin silico MS/MSスペクトルを構築した.これにより,以前までに構築が完了していたグリセロ脂質(中性脂質・リン脂質などの極性脂質)だけでなく,スフィンゴ脂質も同一LC-MS/MSの分析系で同定することができ,より網羅的なノンターゲットリピドミクスが可能となった.HeLa細胞・HEK 293細胞,およびマウスの皮膚・肝臓サンプルを用いたテストサンプルの結果では,ネガティブイオンモードのLC-MS/MS分析系で検出される脂質由来イオンのうち,415種のユニークな脂質構造を同定することに成功した.本研究は,Journal of Cheminformatics, 2017, 9:19にその成果を掲載した.
|