研究課題
ナノディスクは、血中の高密度リポプロテイン(HDL)粒子を人工的に再構成したディスク状の形態を持つナノ粒子であり、通常はHDLの主要タンパク質であるアポリポプロテインA-I(ApoA-I)とリン脂質から構成される。生体内におけるHDL粒子は、脂質輸送、特にコレステロールの逆輸送(RCT)において重要な役割を担っており、肝臓外組織からコレステロールを除去するように機能し、多くの細胞の構造及び機能を維持することに寄与する。実際に、HDL粒子の血清レベルが高いと、冠動脈心疾患を抑制するだけでなく、アテローム性動脈硬化症のプラークの退縮を促すとされている。このような生体内における作用を有することから、HDL粒子に結合したコレステロールは一般に「善玉コレステロール」と呼ばれている。これに対して、低密度リポプロテイン(LDL)粒子の血清レベルの上昇は、心血管リスクの増加と相関しており、LDL粒子に結合したコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれている。従って、血中のHDLを模倣したナノディスクは、高脂血症、高コレステロール血症、冠動脈心疾患、アテローム性動脈硬化などの心血管疾患を含む、脂質代謝異常障害に対して有効であり、これらを治療または予防する医薬品として注目されている。ナノディスクの形成にはApoA-Iの両親媒性の部分配列が有効であることが知られているが、今回独自に発見したネッタイツメガエル皮膚由来Pxtペプチドの内、両親媒性・界面活性能を強力に有するPxt-5(FIGALLGPLLNLLK-NH2)とそのアナログペプチド(FIQALLQWLLELLK-NH2)を合成し、詳細に調べたところ、ナノディスク形成能を有することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
ネッタイツメガエル皮膚由来Pxtペプチドについて、新たにナノディスクの形成機能を有するという新規性に富んだトピックス性を持つ結果が得られたので。
ネッタイツメガエル皮膚由来の新規ペプチドの、物理化学・コロイド化学的特性を解明する。そのためには、経験的なアミノ酸配列変異を入れるだけではなく、計算化学的手法を取り入れ、積極的にアミノ酸配列改変やアミノ酸変異導入を実施し、特性の向上を目指す。
2016年度に産総研の関西センターから四国センターに異動となり、研究実施場所が変更になった。現在は研究実施場所の整備は完了し、通常の研究実施は可能となった。また2016年11月に扶養家族である家内の乳がんが判明し、手術・抗ガン剤治療(2017年4月まで)のために研究の遂行が非常に遅れた。現在は家内の病気はほぼ完治したが、平成30年度の一年間の延長申請を行った結果、認められた。
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10.4014/jmb.1711.11030
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