研究課題/領域番号 |
15K01820
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村田 亜沙子 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50557121)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA高次構造 / 小分子化合物 / 翻訳-1フレームシフト / 翻訳制御 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「小分子に誘起される-1リボソーマルフレームシフトにより,細胞内でタンパク質の輸送・局在を可逆的にコントロールする」ことである。平成28年度は以下の2つの項目に分けて研究を進めた。 研究計画(2). 翻訳-1フレームシフト効率を最大化する配列・リガンド構造を探索する: 前年度までに,NCT誘起型のシュードノット配列として,mouse mammary tumor virus(MMTV)のシュードノットを改変した配列を用い, NCT誘導体存在下で翻訳-1フレームシフトが引き起こされることを明らかにしている。しかし,フレームシフトの効率が20%程度と低く,効率の向上が望まれた。NCT誘導体によるフレームシフト効率の最大化を目指し,Infectious bronchitis virus(IBV)のシュードノットをNCT誘起型に配列改変し,それを導入したRNAを作製して同様の実験を行ったが, NCT誘導体によるフレームシフト誘起は確認されなかった。そこで,同じくフレームシフトを引き起こすことが知られているSimian retrovirus(SRV)のシュードノットを,NCT誘導型に改変したものを用いた。現在までに,NCT誘起型SRVシュードノット配列が,NCT誘導体によりその二次構造が変化することをゲルシフトアッセイにより確認している。研究計画(3). 細胞内翻訳-1フレームシフトによりシグナルペプチドの付加を制御する: これまでに,in vitro翻訳反応において,NCT誘導体がmRNA上にシュードノット構造を誘起し,翻訳-1フレームシフトを引き起こすことを明らかにした。そこで,同様の現象が細胞内でも起こるかどうかを調べるために,デュアルルシフェラーゼレポーター(Rluc, Fluc),デュアル蛍光タンパク質レポーター(mCherry, EmGFP)アッセイを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画(2). 翻訳-1フレームシフト効率を最大化する配列・リガンド構造を探索する: おおむね順調に進展している。NCT誘導体によるフレームシフト効率の最大化を目指し,RNA配列の検討を行った。MMTVのシュードノットに加え,IBVおよびSRVのシュードノットをNCT誘起型に改変した配列を用いてゲルシフトアッセイ,レポーターアッセイを行った。NCT誘起型IBVシュードノット配列を用いた場合には,NCT誘導体による翻訳-1フレームシフト誘起は確認されなかった。しかし新たに作製したNCT誘起型SRVシュードノット配列では,NCT誘導体添加による二次構造変化がゲルシフトアッセイにより観察された。今後は,デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイおよびウエスタンブロッティングにより,NCT誘起型SRVシュードノットのフレームシフト誘導効率の算出を行い,最適な配列の探索する。研究計画(3). 細胞内翻訳-1フレームシフトによりシグナルペプチドの付加を制御する: NCT誘導体による翻訳-1フレームシフトが細胞内でも起こるかどうかを調べるために,デュアルルシフェラーゼレポーター(Rluc, Fluc),デュアル蛍光タンパク質レポーター(mCherry, EmGFP)アッセイを行った。NCT誘起型MMTVシュードノットを2つのレポーター遺伝子の間に挿入したレポータープラスミドを作製し,HeLa細胞に導入した。これらの細胞にNCT誘導体を添加し,ルシフェラーゼアッセイあるいは蛍光顕微鏡観察によりレポータータンパク質の発現を評価した。その結果,NCT誘導体によりNCT誘起型MMTVシュードノット下流のレポータータンパク質(Fluc, EmGFP)の発現量が上昇することが明らかになった。すなわち,NCT誘導体による翻訳-1フレームシフトの誘起が細胞内でも引き起こされることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に得られた研究成果をもとに,NCT誘導体による翻訳-1フレームシフトの誘起を細胞内シグナルペプチドの付加の制御に応用する。これらは,現在までに最も良好な結果が得られている,NCT誘起型MMTVシュードノットを用いて行う予定であるが,これと並行して,翻訳-1フレームシフト効率を最大化する配列の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるにあたって必要に応じて研究費を執行したため,当初の見込み額と執行額は異なったが,研究計画に大きな変更はない。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究成果により,NCT誘導体による翻訳-1フレームシフトが細胞内でも起こること明らかにした。次年度は,前年度までの成果を本研究の目的である「小分子に誘起される-1リボソーマルフレームシフトにより,細胞内でタンパク質の輸送・局在を可逆的にコントロールする」ことに応用するために,細胞を用いた検証実験をさらに行う予定である。よって前年度の研究費も含め,当初予定していた計画に沿って,細胞培養実験,および,それに必要な分子生物学実験に使用する物品等に助成金を使用する。
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