研究課題/領域番号 |
15K01821
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
土川 博史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30460992)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | V-ATPase / Bafilomycin / 固体NMR / フッ素標識 / 化学合成 |
研究実績の概要 |
本研究では液胞型プロトン-ATPアーゼ(V-ATPase)を特異的に阻害する天然物であるバフィロマイシン(Baf)に着目し、化学合成を基盤とした複合体構造解析を実施することで、阻害機構の解明を目指す。前年度までに固体NMR測定に必須である、強力な活性を保持したフッ素標識化Baf誘導体(24-F-Bafおよび2-F-Baf)の合成に成功した。そこで平成28年度は、固体NMRの異種核間距離測定法の一つであるREDOR法を適用するために、19F, 13C二重標識体の合成を検討した。また同時に固体NMR測定に必要なタンパク質試料の調製の検討も行った。 まず、合成のし易さおよび分子内距離測定により得られる情報の有用性を考慮し、24-F-1,2-13C-標識体を合成標的とした。合成スキームについてはすでに24-F-Bafの合成で確立しているので、残る課題としてC1,C2位を増炭する試薬の13C標識体の合成法を確立することを検討した。ブロモ酢酸を出発原料とし、4段階でα-ジメトキシ酢酸メチルへと変換後、五塩化リン、亜リン酸トリイソプロピルで処理することで、望むC2ユニットを有するホスホン酸試薬の調製に成功した。これにより、目的とする24-F-1,2-13C-標識体の合成法を確立した。 続いて標的タンパク質であるV-ATPaseを調達すべく、まずは大量培養が容易な出芽酵母(S. cerevisiae)を用い、V-ATPaseを含む液胞膜小胞の単離精製を検討した。酵母を対数増殖期で集菌し、酵素処理により細胞壁を破壊してスフィロプラストとした後、遠心分離により液胞膜の単離を検討したが、望む膜成分は得られなかった。しかしながら遠心分離後、沈殿物の方にV-ATPase活性があることを確認した。これによりV-ATPaseを含むタンパク質試料を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる目的は、化学合成によってのみ調製可能なBaf標識体を駆使し、巨大で複雑な膜タンパク質であるV-ATPaseとの複合体構造を明らかにすることである。今年度において、実際に固体NMR構造解析に用いる24-F-1,2-13C-標識体の合成法を確立した。さらにV-ATPaseを含むタンパク質サンプルの調製も達成したので、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに24-F-1,2-13C-標識体の合成法の確立に成功したので、平成29年度は、まず本標識体の量的供給を達成する。また、前年度に調製したタンパク質サンプルを用い、24-F-Bafと混合して固体NMR測定を行うことで、V-ATPaseへの結合によりフッ素のシグナルが変化するかなどの予備実験を行い、実際にREDOR実験に適用可能なタンパク質サンプルであるかを確認する。もし不十分である場合は、サブユニットaのC末にTAPタグを発現させた菌株を培養し、細胞を破砕後アフィニティーカラム精製を行うことで、V-ATPaseのさらなる精製を行う。また、固体NMR測定条件の決定および測定データの解析を正確に行うために、単離V-ATPaseの定量および標識Bafとの親和性測定も行う予定である。 次に、合成した24-F-1,2-13C-標識体とタンパク質サンプルを混合して複合体を形成させ、この複合体に対してまずは13C{19F}REDOR測定により24-F-1-C原子間の距離を求める。タンパク質由来のシグナルとの重複が激しい場合は、連続標識によるフィルタリングを利用したDQF-REDOR測定を検討する予定である。得られた距離を制限情報としてマクロモデルによる最安定配座の算出を行い、さらにX線構造が得られている細菌由来V-ATPaseのホモロジーモデリングを活用したドッキングシュミレーションも実施することで、より正確な阻害部位構造の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に予定していたタンパク質精製実験を来年度に集中して行うように変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度も引き続き標識体の多段階合成を行うために、それに伴う大量合成は避けられない。さらに酵母培養およびV-ATPase精製用の試薬に加え、タンパク質の精製度を確認するための電気泳動やウェスタンブロッティング用試薬も必須であるため、消耗品費として年間1,300千円程度使用する予定である。また、本年度は2回の成果発表(国内)および学会誌投稿も計画しており、100千円程度使用する予定である。
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