研究課題
本研究では液胞型プロトン-ATPアーゼ(V-ATPase)を特異的に阻害する天然物であるバフィロマイシン(Baf)に着目し、化学合成を基盤とした複合体構造解析を実施することで、阻害機構の解明を目指す。前年度までに固体NMRのREDOR法を適用するための、Bafの19F, 13C二重標識体の合成法を確立した。また同時に粗精製物ではあるが固体NMR測定に使用可能なV-ATPaseを含むタンパク質試料の調製に成功した。今年度はまず、すでに合成を達成している活性を保持したフッ素標識化Baf誘導体(24-F-Bafおよび2-F-Baf)と活性の無い誘導体(デスメチル24-F-Baf)を用い、固体NMR測定を行うことで、膜中での挙動解析を行った。POPCのリポソーム中にBaf誘導体を添加しF-NMR測定を実施したところ、まずStaticな条件において、24F-Bafおよびデスメチル24-F-Bafそれぞれについて、CF3由来のシグナルを観測した。このシグナルからオーダーパラメーターSmolの値を算出したところ、24F-Bafがデスメチル24-F-Bafよりも運動性が低いことが明らかとなった。さらにマジック角回転下でサイドバンドの解析を行った結果、両誘導体とも運動性の異なる2成分の存在が示唆され、それらの割合が両者で異なることが明らかとなった。以上のことから、両化合物の膜中での挙動が大きく異なることが示唆され、これが両者の活性の違いに影響している可能性を示唆する結果を得た。巨大な膜タンパク質と小分子の相互作用を議論する際、化合物の膜中での挙動とタンパク質への結合の両過程を区別して観測することは通常困難である。今回、固体NMRを適用することで、前者の情報を選択的に取得することに成功し、また本過程が活性の違いを引き起こす要因の一つである可能性を初めて示唆することに成功した。
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Asian Journal of Organic Chemistry
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DOI: 10.1002/ajoc.201800074