研究課題/領域番号 |
15K01827
|
研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
河合 靖 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (20240830)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 蛍光プローブ / がん細胞 / 分子イメージング / 酵素活性検出 / プテリン |
研究実績の概要 |
本研究では、がん細胞で特異的に発現している酵素によってのみ発光する新たなプテリン誘導体の蛍光プローブを幾つか開発し、それらの細胞での機能評価を行うことを目的としている。 平成27年度は、酵素反応によって蛍光がoff/on制御できるプローブを、がん細胞中で特異的に発現している多くの酵素に対して設計し、それらを実際に合成した。ターゲットとなる酵素としては、多くのがん細胞中で特異的に発現しているγ-グルタミルトランスペプチダーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、γ-グルタミン合成酵素、カテプシンなどを検討した。量子化学計算により、それぞれの化合物の最適化構造に関する分子軌道及び励起エネルギーを計算し、基質型と生成物型で蛍光のoff/on状態が変化する組み合わせを見出し、酵素反応に対応できる蛍光プローブとして分子設計した後に実際に合成した。基本骨格としては蛍光色素部位(プテリン環)と電子移動部位(ベンゼン環)を連結させた化合物である。ベンゼン環部位の置換基(酵素反応部位)として、各種アミノ酸やペプチドなどを導入する事で、酵素基質としての反応部位を導入する事ができる。合成した化合物は全て吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定し、蛍光量子収率を算出し、ほとんどの化合物において酵素反応によりoff/on型蛍光プローブとして利用できることを確認した。これにより特定の酵素活性によって蛍光のoff/onがスイッチングできる新規な蛍光プローブの開発に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
密度汎関数法を用いた量子化学計算を駆使する事で、それぞれの化合物の最適化構造に関する分子軌道及び励起エネルギーを計算し、酵素反応における基質型と生成物型の構造で蛍光のoff/on状態が変化する組み合わせを数多く見出した。この理論化学による分子設計を経て、そこで見出された候補化合物の中から実際に多くの化合物を合成する事にも成功し、さらに蛍光スペクトルを含む各種スペクトルの測定により、合成された化合物群がoff/on型蛍光プローブとして利用できることを確認した。以上の事から、概ね当該年度の目標は達成できていると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度も当初の計画通りに進める。まず、前年度に合成したプローブに、がん細胞で特異的に発現している酵素を用いて、それぞれの酵素の基質に該当するプローブで酵素反応を行い、蛍光のoff/onによる酵素活性の検出が可能かどうかを評価する。さらに、目的通りの機能を有するoff/on型蛍光プローブが、蛍光on状態でのみDNAに酸化的ダメージを与えられるかどうかも評価する。様々な塩基配列の一重鎖や二重鎖のDNAオリゴマーを設計・購入し、各種蛍光プローブの存在下in vitroで光照射する。DNAへの酸化的ダメージの有無は、HPLCを用いて分析する。その配列特異性や酸化効率などを評価する。 平成29年度は、蛍光プローブのがん細胞選択的な取り込み、酵素活性によるoffからonへの蛍光スイッチング、及び光照射によるDNA損傷の三つの機能を最終的に細胞系で評価する。各種細胞を培養し、前年度に開発された蛍光プローブを導入して共焦点レーザー顕微鏡で観察し、がん細胞可視化プローブとしての性能を評価する。期待通りの性能を有するプローブに関して、光照射によるDNAダメージとそれによる細胞増殖抑制の効果を評価する。もし計画通りに蛍光プローブが機能していない場合には、これら細胞内での評価を設計段階にフィードバックして、更に効率の良いプローブを設計・合成するという段階を繰り返す事で改良を重ね、最終的に効率的な多機能化学療法剤を開発する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の計画段階では、新規化合物である蛍光プローブの合成方法を確立するために試行錯誤が予想された。また、なるべく多くの化合物を合成する必要があった。そのために合成関連試薬を多く予定していたが、実際には効率的に合成する事ができ、予定より少ない予算で研究計画が達成できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰り越した助成金は、前年度に合成したプローブを用いてより多くの酵素を購入して研究を実施するために使用する予定である。
|