本研究計画ではプテリンを蛍光部位に導入した新規蛍光プローブを設計・合成し、がん細胞で特異的に発現している酵素によってのみ発光するプローブを開発し、それらの細胞内でのDNA損傷機能評価を行うことを目的としている。平成29年度は、酵素活性によるoffからonへの蛍光スイッチングと紫外線照射による配列特異的DNAオリゴマーの損傷評価を行った。 多くのがん細胞中で特異的に発現している酵素の中で、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)をターゲットにした新規蛍光プローブを各種合成し、その効果を検証した。ジアミノプテリジンを蛍光部位とし、複数の電子吸引基を様々な置換パターンで導入したフェニルスルホンアミド誘導体を各種合成し、蛍光のoff/onによってGSTの活性検出が可能かどうかを検討したところ、電子吸引基の置換パターンによってGSTの活性が大きく異なることが明らかになった。また、蛍光プローブの疎水性の違いにより、細胞への導入効率が大きく左右されることも明らかになった。 紫外線照射によるDNAオリゴマーの損傷評価では、塩基配列の異なる10オリゴマーを設計し、蛍光がon状態のプローブ存在下で360 nmの紫外線を照射してその損傷をHPLCとLC-MSによって評価した。グアニン(G)が連続した配列のDNAオリゴマーの時のみに紫外線照射によるDNAの損傷が確認され、その生成物はLC-MSの解析により酸化体DNAオリゴマーであることが分かった。これにより、on型蛍光プローブへの紫外線照射による励起状態への電子移動か、発生した活性酸素による酸化反応によって連続G配列を有するDNAオリゴマーが酸化的ダメージを受けていることが明らかになった。
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