研究課題
植物の分化成長の制御の中心となっているオーキシンのホルモン作用には,植物内の器官・組織内での濃度分布の調節が非常に重要となっている。この濃度分布は,主としてオーキシンの生合成・輸送・代謝による3段階で制御されている。植物の重要な環境応答である屈性応答や頂芽優勢は,オーキシンの濃度分布の差が形成されことにより調節されると考えられている。すなわちオーキシンの不等分布による各組織,細胞間のオーキシン応答の差により,屈性応答などが引き起こされる。このようにオーキシンの濃度分布の情報は非常に重要であることから,これまで,オーキシン濃度分布の可視化手法などが精力的に研究されてきたが,逆のアプローチであるオーキシンの濃度分布を人為的に制御する確実な手法は報告されていない。本研究では,新しいオーキシンの濃度分布の制御手法の開発に着手した。平成27年度はオーキシンに各種アミノ化合物を結合させたプロドラッグを合成し,植物体内で代謝安定性を示したオーキシンプロドラッグを見出し,このプロドラッグを分解してオーキシンを遊離する微生物酵素の同定に成功した。平成28年度はこの酵素遺伝子のクローニングと組換え酵素の発現に着手した。ホモログ検索による候補となる微生物の酵素遺伝子をクローニングし,このプロドラッグ遊離酵素遺伝子を,大腸菌においてGFP融合タンパクとして,活性を維持したまま発現させることに成功した。この組換え体酵素を用いてカイネティックスを測定し,プロドラッグに対するKm値やVmaxなどから,酵素の基質特異性や合成したプロドラッグに対する親和性を検討した。また酵素のGFP融合たんぱく質を過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体の作成を実施して,融合タンパク質の植物体の成長に対する影響を検討した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に計画していた微生物由来のプロドラッグ代謝活性化酵素の探索に成功し,その酵素遺伝子のクローニング,大腸菌での組み換えタンパクの大量発現と精製に成功した。また,得られた組み換え酵素を用いて,プロドラックに対する親和性や速度定数などを測定した。組み換え酵素はGFP融合タンパクとして発現させた場合においても活性を示し,過剰発現した場合においても,大腸菌やシロイヌナズナに対する顕著な毒性は示さなかった。以上,研究全体としておおむね順調に進展していると評価できる。
平成29年度の最終年には,同定したプロドラッグ活性化酵素とGFPの融合遺伝子を,植物の組織特異的なプロモーターの制御下で発現する形質転換植物を作成し,オーキシンの精密制御を実施し,オーキシン応答性のレポーターラインなどを同時に導入し,細胞特異的にオーキシン濃度の制御が達成されたかどうかを検討する
平成28年度に予定していた次世代ゲノムシーケンスによる受託解析ならびに受託による植物の形質転換体作成を検討していたが,形質転換体作成については,研究室での作成するためのマテリアルと設備環境が整い,問題なくシロイヌナズナを形質転換することができたため,使用予定額に差が生じた。
遺伝子クローニングのための試薬と,研究の効率上昇のための培養器具の設置に当てる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Plant J.
巻: 87 ページ: 245-257
10.1111/tpj.13197