本研究では、哺乳類における生物時計の中枢である視交叉上核の概日リズム安定化に関わる神経基盤を単一神経細胞とグリア細胞の相互作用という観点から解明することを目的として研究を行なった。これまでに、神経細胞群とグリア細胞の相互作用は他の脳領域では報告されてきているが、概日リズムの安定化という観点で単一神経細胞とグリア細胞の相互作用を理解することは極めて重要であるがこれまで明らかとなっていない。本研究では、単一の神経細胞を微小区画内に隔離培養できる直径100μmの微小ウェルが多数配置されたマルチパターン培養皿を微細加工技術(MEMS)により作成し、視交叉上核の単一細胞から長期に渡って細胞内カルシウム変動を高感度カルシウムセンサー(GCaMP6s)を用いて測定することに成功した。また、マルチパターン培養皿を用いることで、単一神経細胞のみの区画や単一神経細胞とグリア細胞の共培養状態の区画を形成し同時にイメージングすることに成功し、グリア細胞あり/なしでの神経細胞の概日リズムのパターンを比較解析することが可能となった。その結果、視交叉上核の個々の神経細胞は、単一の培養状態のほぼ全てで極めて安定した概日リズムを示す事が明らかとなった。同時に、グリア細胞が共培養された状態であると単一神経細胞の半数以上で概日リズムそのものが不安定になることが観察された。これらの結果は、グリア細胞が単一神経細胞の概日リズムの安定化に何らかの影響を与えていることを示唆するものである。
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